今こそ兼好法師に学べ

 新型コロナ(COVID-19)感染者数がここにきて下げ悩んでいる。

 年明け早々に発令された2度目の緊急事態宣言から間もなく2ヶ月、さすがに一時の爆発的拡大は影を潜めて長い下降傾向を示しており、宣言下のうち関西・中部・福岡では本日限りの前倒し解除が決定した。しかし首都圏では下げ止まり、つまりは減少の鈍化が指摘され、あろうことか増加傾向すら見え始めた。
 元々今回の緊急事態宣言は施行当初から効果が疑問視されてきた。自粛要請範囲が夜間の飲食店に限られるなどかなり限定的であり、結局施行後も前回のように繁華街が閑散とすることもなく、特に日中など「これで緊急事態宣言下なの?」と疑問が湧くほど人通りが減らなかったのだから。

 しかしそれでも東京で1日最高2,500人にも達した新規感染者数は近頃200~300人を推移しており、まさしく1桁減少している。はたしてこれは緊急事態宣言の成果なのか。ここにきて世界中の新規感染者が減少傾向にあり、またぞろ「ファクターX」の存在が囁かれる一方、濃厚接触者を追わなくなった事に起因するPCR検査の減少による見せかけの減少だとも言われている。

 いずれにしろまだまだワクチン摂取の成果を期待するには早すぎるし、今はまだマスク着用・消毒の徹底・接触の回避という地道な方法に頼るしかないのだ。

 首都圏の感染者数下げ止まり・増加傾向は結局の所人手が増えたことによる所が大きい。確かにコロナウイルスが低温で活発化することは確かなようだが、暖かい日が増えてきたからといってウイルスが不活性化するわけではないことは昨年夏の第2波でよくわかったはずだ。

 このような状況の中、思い起こされるのは700年も昔に吉田兼好法師が書き記されたとされる「徒然草」の一節だ。第109段の「木登り名人の話」と言われるものだが、古典の教科書にも載ってたりするから知っている人も多かろう。かいつまんで言うとこういう内容だ。

  木登り名人が弟子に高い木に登らせて作業をさせている。弟子が目もくらむような高所にいる時に名人は何も言わずにただ見つめているだけだったが、弟子が作業を終え降りてきて、もうあとちょっとで地上という段になっていきなり「気をつけろ」と声をかけたのだ。
 あそこまでくればもう飛び降りたって怪我もしまい、と不審に思って訊くと名人はこう答えた。「高い所にいれば怖くて自分で気をつける。本当に危ないのは降りてきて『もう安心だ』と気を緩めた時だ」と。

 

 今、我々は減少傾向に安堵して気を緩めている。今こそ本当に危ない時なのだ。