トランプと陰謀論

 トランプが悪あがきを続けている。

 長くかかったアメリカ大統領選も、どうやらバイデンの勝利がほぼ確定的になった。
 それにしても「負けを知らない男」トランプは決してそれを認めようとはせず、「開票に不正があった」として法廷闘争に持ち込もうとしている。
 それ自体は以前から予測されていたことであり意外でも何でもない。むしろ予想通り過ぎてあきれるほどだ。


 トランプが大統領を続けたこの4年間、いったい何度同じような事態を目にしただろうか。大統領の権威を笠にとり、自分の都合の悪いことは「不正だ」「フェイクニュースだ」と相手を非難・否定することによって自分の非を認めないでここまできたのだ。今回も「郵便投票は不正の温床」「郵便投票が開票される前の(自分が有利な時点の)段階で投票を打ち切るべきだ」と主張し、実際に次々と訴訟を起こしている。
 今回の矢継ぎ早の訴訟騒ぎに関しても「不正の証拠はある」と言い張っているが、断言しよう、この証拠が出てくることは決してないだろう。
 結局今までもトランプはこうしてブラフを噛ますだけで、実際に具体的な証拠を出したことはないのだ。
 今年に入ってからも、新型コロナウイルス(COVID-19)の発生源に対して「武漢の研究所が流出させたという決定的な証拠がある」と大見得を切っておいて、結局その証拠は出さな――いや、出せなかった。

 そしてトランプの不正発言に呼応するように、ここ数日ネット上などで怪情報が飛び交っている。

 曰く「投票所でトランプ票が捨てられた」
 曰く「どこからともなくいきなり大量のバイデン票が現れた」
 曰く「投票率が200%に達した」

 いや、冷静に考えれば、こっちこそ典型的なフェイクニュースだろ、ふつー。

 しかし恐ろしいことに、トランプのやり方に4年間晒されている内に、こういう考えがトランプの支持層に広くはびこってしまい、合理的な判断力が失われつつあるように見える。これら立証されてない噂を元に、選挙の無効を訴える騒ぎがあちこちで起こっているのだ。

 その根底にあるのは、自分に不利な状況に陥った場合、「自分は悪くない」「相手の方がおかしい」と常に考えて自分側の問題点を回避しようとするその思考回路だ。この思考回路、それこそ巷にはびこる「陰謀論」と共通している。自分がうまくいかないのを「すべてはフリーメイソンが悪い」と言っているのと本質的には変わらない。

 そう、トランプおよびトランプ陣営がわめいていることはとどのつまり根拠の乏しい陰謀論でしかない。しかし当人はその事に気がつかないのだ。

 アメリカの分断が叫ばれて久しいが、それを激化させた原因のひとつに、トランプがこの「すべては向こうが悪い」という考えを国民に植え付けた事が挙げられる。この「自分に甘く、他人に厳しい」教えによる排他的な考えが、現在の対立激化を助長させたのだと思う。

 すべてはこのひたすら独善的でしかない男をトップに掲げ続けた弊害と言っていい。トランプが今後どのようなシナリオで奇跡の逆転劇を演じようとしているのか、訴訟の嵐で時間稼ぎをし、最終的に下院で決定させるという説が有力だが、この提訴も次々と棄却され続けているのが現状だ。もうそろそろトランプの化けの皮が剥がれてきたようにみえる。

 この敗北を機に、トランプが速やかにホワイトハウスを去ることを心から願う。