それでもオリンピックを開催するのか

 本当に、本当に信じがたいことだが、東京オリンピックが強行開催されようとしている。
 世論調査をすれば毎回確実に過半数が中止を選択するし、国際的にもあちこちから中止の声が上がっている中、それでも日本政府も東京都も、まるで最初からそんなこと念頭にないかのように開催に向けてひたすら歩みを進めている。
 管総理は事あるごとに「専門家の意見を聞いて」と自分の判断を表に出さないが、それでいて政府にとって都合の悪い意見は初っぱなから聞く気はない。政府の諮問機関である感染症対策分科会の長である尾身会長が「普通はない」と名言したのに対して「個人の見解」と突っぱねてしまった。

 結局の所管内閣は「判断を先送りし続けた挙げ句既定路線をやらざるを得なくなる」政権でしかない。おそらく誰もが内心は「誰か『止める』と言ってくれないかなぁ」と思ってるんじゃないかと邪推したくなるが、でも自分からは絶対言い出せない。結果ずるずると開催してしまいそうだ。管総理は典型的な調整型リーダーで、平時ならばそういうトップでもうまくいくことはあるが、今は新型コロナパンデミックの非常時、時には軋轢をものともせず大胆な決断が必要となるのに、よりによってそういうのにまったく向かない人が総理大臣になってしまっているのだ。

 もちろん前任の安倍総理だったら違っていたかというとそんなことはない。そもそも今の自民党政権、少なくとも第2時安倍内閣からは「道理を引っ込めて無理を通す」政権に他ならないからだ。明治以降最長政権を記録したとは言っても、その実体は数限りない横紙破りを無理矢理押し通してきた上に成り立ってきたにすぎない。自分のやりたいことならば道理を"忖度"のもと押し殺して、無理を通しまくっていた。その一部が氷山の一角として露見したのがいわゆる森友学園加計学園であり、「桜を見る会」に他ならない。そうしてやりたい放題無理を通しまくっていた安倍政権だが、結局それが"忖度"の上に成り立ってきたのが今回致命的になった。なぜならウイルスには忖度が効かないからだ。結果として一番の武器を封じられた安倍内閣はいろいろやった上で機能不全に陥り、過度のストレスで総理の持病が再発、最終的に第1時政権の時と同じ理由で退任という情けない事態に陥ってしまった。

 そして第2時安倍政権時の官房長官として懐刀であった管総理も結局同じ路線を踏襲するしかなかった。しかも「管内閣の一番の欠点は管官房長官がいないことだ」なんて当初から言われてたが、総理がトップらしいリーダーシップを発揮できない分ますます烏合の衆と成り果てた感がある。なにしろコロナ対策で有効な最後の手段である「緊急事態宣言」がほとんど機能しなくなってしまったのだから。第2回も第3回も(もちろん蔓延防止等重点措置も)あまり効果が出てない、全くないとは言わないが全然物足りない効果しか出ていない。それを総理自ら「減ってるでしょ」と根拠なく言い張っているんだから、その言葉にますます重みがなくなり、もはや彼の言っていることは戯言にしか聞こえなくなっている。もはや万策尽きて、国民に対して"忖度"を強要しているような状態だ。もはや末期症状と言っていい。


 さらにはオリンピックに対しても「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして実現」(そういのは打ち勝ってから言え!)「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じた上で開催」(どうやったら具体的にそれができるのか、エビデンスに基づいて明言してもらいましょうか)「国民の命と健康を守るのは私の責務だ。五輪を優先させることはない」(ちょっと何言ってるか分からないんですけど、マジで)と、もはや支離滅裂状態に陥っている。これらの言動をちゃんと全うしようとするのならば、「オリンピック中止」一択しかないのだが。

 結局今政府がコロナ対策としては、明言はしないが緊急事態宣言は当てにしていず、ワクチン接種に全振りしているようだ。とにかくワクチンはどうやら確保の目処が立ったので、後はどうにかして1日でも早く国民に広く接種を進めていくか、それしか考えてないように見える。実際ワクチン接種がある程度進んだ国(イスラエル・イギリス・アメリカ)はとりあえず感染拡大が抑えられ、徐々に日常を取り戻しつつある事は確かで、日本もとにかくワクチン接種を進めていけば徐々にそうなってくれるはず、とその日が早く来るのを指折り数えているのだろう。確かにここに来て接種ペースはぐんと上がってきているのは確かだが、エンジンがかかるのが遅すぎた。なにせオリンピック開会式の7月末時点でも65歳以上の高齢者の接種分ですら終わってないのだから。ワクチン接種が広まって感染状況が改善するには、おそらく国民の過半数の接種が完了することが必要だろう。先の東京オリンピックのように10月開催だったら間に合った可能性もあるが、純粋にアメリカの放送局の都合で夏開催に最初から決まっていた、という時点でもはや手詰まりだった。
 それに確かにここにきて急速にワクチン接種が進みつつあるのは、4月に管総理が訪米した際にファイザー社と直接交渉し、確保を確約したとの背景があるのだが、おそらくだがその交渉の際にこちらから「オリンピック開催」を確約したのではないだろうか。要は「オリンピックは必ず開くからワクチンをくれ」と。しかも日本にワクチンが順調に入ってくるようになったのと時を同じくして、韓国にはワクチンが入ってこなくなっていきなり接種が滞りだしたなんてことを聞くと、どうやらオリンピックを交換条件として、韓国に行くはずだった分のワクチンをも日本が横取りしてしまったんではないかと危惧したくなる。

 だかこれによって、日本はますますオリンピックをやらざるを得ない状態に追い込められてしまっているのだ。だがオリンピック期間中にワクチンの効果が出始めるというのは期待できない。かくなる上は、せめて最低でも無観客開催、できることなら期間中外出禁止令を出すぐらいの強硬手段に出るべきなのだが、今もなお観客制限だのパブリックビューイングだの、何らかの形で経済効果を得たいとの色気を出しまくっていて期待ができない。

 最後に改めて言う。結局の所、ワクチン以外でコロナ感染を抑えるのに確認されている唯一の手段は「人流を止める」以外にないのだ。