いつまでも あると思うな パイパーズ

 管楽器専門誌「PIPERS」が、今年3月の通刊500号をもって休刊すると発表した。

 この報せは正直唐突で、強い衝撃を受けたが、一方で「しかたないのかな」とも思った。
 PIPERSはかなり特殊な雑誌である。木管および金管楽器に特化した内容で、正直一般の人の間にはほとんど知られてないだろう。一方でこれらの楽器をやっている人、その中でもかなり凝り性な人にとってはこれ以上ないほど興味深い内容満載の雑誌なのだ。
 その扱う範囲はその楽器の新製品情報はもちろん、奏法や奏者のインタビューに始まり、珍しい楽器の比較検討から楽器制作者への取材、管楽器の隠れた名曲の紹介から楽器や楽団の歴史、演奏会情報やCD評まで多岐にわたる。いずれもPIPERS以外では絶対に取り上げられないような内容であり、切り口も深掘り具合もこの上なく、まさしく唯一無二の雑誌だった。吹奏楽関連の雑誌は「バンドジャーナル」等他にもあったが、そのエッジの鋭さは比較にならなかった。
 このブログでも、以前PIPERSに載っていた「マウスピースのリフェイシング」に関する記事を読んで驚きを持ってその考察を取り上げさせてもらったが、他にもブログを書くに当たっていろいろ参考にさせてもらったことが何度もある。自分がPIPERSを知る前に載った記事で興味をそそられるものもたくさんあったので、編集部に申し込んで記事のコピーを大量に送ってもらったこともあるし、そうしたものはすべて丁寧にファイルして自分の宝物になっている。

 ただ、そのように非常に深いものであるが故に、その内容はどうしてもマニアックになってしまい、読む人を選ばざるを得ない。僕もこの雑誌を知ったときは感激して、何年にもわたって毎号欠かさず購読していたのだが(定期購読を申し込むことも真剣に考えていた)何年か読むうちに次第に疲れてきた。というか各記事は何種類もある木管金管楽器全般をくまなく取り扱っているので、僕がやっているクラリネットに関する記事ばかりではない。もちろんクラリネット以外でも興味深く読んだ記事はたくさんあるものの、時には1冊まるまる興味を惹かれない記事ばかりの時もあり、年を追うごとに徐々にそういうものが増えてきた。遂にはある時ふと買うのを止めてしまい、以降はHPに掲載される記事一覧を見て、興味を惹かれた記事がある時のみ購入するようになっていた。

 そうこうするうちに雑誌自体も徐々に値上げを繰り返しており、過去の記事を再掲することも時々見られるようになってきた。でもこういう再録ができるのもPIPERSがそれだけ歴史と実績のある雑誌だからだと高をくくっていたところがある。購入する頻度はだんだん減っていったが、それでも毎月必ず刊行されるものだといつしか慣れきっていたのだ。
 しかし昨今の只ならぬまでの出版不況の折、これだけ読者を選ぶ雑誌を刊行し続けるのは考えてみれば至難の業だろう。僕のようにたまにしか買ってくれない薄い読者では売り上げには貢献できてなかったろうし、発行部数は減少していたに違いない。それでも下手に部数を伸ばすような路線変更をせず、一貫して編集方針を貫き通したのはあっぱれとしかない。それで創刊から40年余り刊行し続けたのは、思えば奇跡のような雑誌だった。
 そして今回、500号という切りのいい数字で区切りをつけることに決めたのだろう。これから新しい記事が書かれなくなるのはさみしいが、この間書かれた記事は多くの人にとってかけがえのない情報が詰まった知的財産といっていいものだろう。できれば休刊後も望めば閲覧できるようライブラリー化してもらえるとありがたいと思うが、それだけの価値のある雑誌だった。

 いつしか売り上げに貢献しなくなっていた自分には休刊することに対して文句を言える立場にない。休刊を聞くまでそのありがたさを忘れていた自戒をこめて、このタイトルを復唱することにしよう。「いつまでも あると思うな パイパーズ」

 奇蹟の雑誌に、乾杯。長いことどうもありがとうございました。