最強の加湿器

 今回のコロナ禍のおかげでマスクやアルコール消毒液などいろんなものが今までにないほど注目を集めた(イソジンは一瞬で消えたな)が、その中のひとつとしてこの冬、加湿器にも注目が集まっている。
 冬の低温がコロナウイルスを活性化することはかなり前から言われていたが、さらにスーパーコンピューターの解析で、乾燥が飛沫の拡散を大いに促進することが分かってきたからだ。おかげでこの冬は加湿器の売上がかなり増加したらしい。

 自分も久しぶりに加湿器を購入することにしたのだが、それにしてもいろいろある加湿器のうちどれにすべきか、というのが悩みどころだった。

 現在、家庭用として普通に売られている加湿器は、その加湿方法によって大体次の4タイプに分けられる。
○スチーム式
○超音波式
○気化式
○ハイブリッド式
 この中で「スチーム式」はもっとも馴染みやすい。要はお湯を沸かしてそこから出る蒸気で加湿する方法だ。ある年齢以上の人なら、石油ストーブの上にやかんを乗っけておき、その口から湯気が立っているのは冬の風物詩として当たり前の風景だった。原理的にはそれと変わらない。
 一方僕が最初に「加湿器」として認識したのは「超音波式」だった。上部に取り付けられた吹き出し口からスーッと白い霧が絶え間なく吹き出し続ける様は初めて目にした時からすごい印象に残った。原理的には発生させた超音波で水を細かく砕いて吹き出すもので、要は霧吹きと一緒。指で押して霧を発生させる霧吹きを、機械で自動的に延々と吹き出し続けるようにしたものと思えばいい。
 「気化式」はあんまり馴染みはないのだが、これは原理的には濡らした手ぬぐいを吊して干して置いて、それに風を吹きかけることで湿気を飛ばすようなものらしい。そしてそれに熱を加えてさらに加湿効率を高めたものが「ハイブリッド式」ということか。

 それぞれにメリットデメリットがあるが、「スチーム式」はシンプルかつ古典的なだけに、実は加湿効率面・衛生面でももっとも優れている。水を沸騰させた湯気だけに殺菌力も高く、沸かし続ければ水が残っている限りどんどん加湿されていく。ただ一方、水を沸騰させ続けなければならないため、他の方法よりも熱量が格段にかかるのだ。電熱でやる場合、消費電力は他の方法に比べて圧倒的にかかってしまう。
 一方「超音波式」は超音波を発生させる原理があればどんどん霧になって放出されるので効率もよく、ランニングコストも格段に安い。湯気でなく霧なので冷たく、不注意で火傷をする心配が無いというのもメリットだ。だが一方一番の問題点は衛生面。タンクに溜めた水を直接空中に散布する方法のため、水の中に雑菌やらカビが発生するとそれがそのまんま空中にばらまかれてしまう。そのため超音波式加湿器による「加湿器病」なんてものまであるほどだ。そのためこのタイプを運用するには、タンクの掃除・水の除菌等その手入れに常に気をつけなければならない。
 「気化式」もシンプルだが、これは原理的に加湿効率に難があり、まわりの環境に影響されやすく、低温など場合によってはあまり加湿が進まない可能性がある。その欠点を克服するために「ハイブリッド式」が考案されたのだが、どちらも手入れが面倒という欠点があり、お値段も張るのが多い。

 このように帯に短したすきに長し。結局それぞれの利点と欠点を天秤に掛けて自分に向いたものを選ぶ必要がありそうだ。

 実は僕が最初に買ったのは「スチーム式」だった。その頃はやっていた、使い終わったペットボトルに水を入れて逆さにぶっさすと、そこから水が加湿器内に流し込まれて熱せられ、湯気が出てくるタイプのものだ。卓上で簡単に移動できる手軽さやペットボトルを使う遊び心もあって数シーズン使ったのだが、そのうち使用を断念せざるを得ない大事件が発生した。
 あの東日本大震災だ。
 福島から青森にかけて広範囲で発生した巨大津波により福島第一原発メルトダウンを起こしたことは記憶に新しい(というか今もなお現在進行形なことを忘れてはならない)。一時期すべての原子力発電所が稼働を停止し、それにより電力供給が逼迫した。供給量を抑えるために計画停電という異常事態まで起こり、積極的に節電せざるを得ない事態に陥った。我が家もこれを機に電気ポットの使用をやめ、昔ながらの魔法瓶に切り替えたのを始め、その他なくてもあまり支障が無い電気機器の使用をいくつも取りやめた。そして、消費電力の大きいスチーム式加湿器は真っ先にその対象となった。
 またこの時取りやめたのはもうひとつ理由があった。使っているうちに機器内に水道水のミネラル分が付着し、水漏れ等の誤作動が頻繁に起こるようになっていたのだ。どうもこれもスチーム式の宿命らしく、白くこびりついたそれを掃除して取り除かなくてはならないのだが、けっこう手の入らない細かいところにもはまり込んで素人ではけっこうどうしようもなくなってきていたのだ。分解掃除できるようになっていればいいのだが、安価なものは必ずしもそうなってないものも多い。
 その結果、使用を取りやめるとともに廃棄処分することにした。

 以来久しく加湿器は使っていなかったのだが、今回のコロナ禍で約10年ぶりに買うことにして、どの方式にするか、考えた上で選んだのが「超音波式」だった。ネットなどで調べてみると、衛生面でお勧めしない口調のものも目立つが、前回のスチーム式の反省点から、安価で省電力、仕組みがシンプルで手入れしやすい点を評価して購入したのだ。
 もちろん使用に当たり衛生面は気をつけているつもりだ。抗菌仕様の機器を選び、水は必ず(カルキ消毒されている)水道水を使い、水の入れっぱなしは絶対にせず、毎晩水を抜いて分解・拭き掃除をして一晩そのまま乾かし、翌日使う際にまた水道水を入れ直す。さらには使用前にタンクに必ず除菌液も入れている。これだけやればまぁ大丈夫だろうとは思うのだが、それでもやはり雑菌をばらまいてないかという不安は完全には拭いきれない。
 それに使ってみた印象なのだが、なんだか時折鼻の奥がスースーする気がする。これは推測だが、霧吹きの要領だから水の粒が他の方式と比べて粗く、それを直接吸入すると霧の中を歩くような違和感を覚えるのではないだろうか。中に含まれるカルキ臭も関係しているかも知れない。それ自体は大した刺激ではないのだが、衛生面に不安を抱えるものだからそれが一層気になってしまうのだ。
 さらにもうひとつ。冬の寒い空気の中で使うと、吹き出される霧はひんやりと冷たく、気化熱で温度を奪ってより一層冷え込みを増すような気がする。冬だからこその加湿が、逆に寒さを助長させるのだ。

 こうして考えてくると、純粋に冬の加湿という意味ではスチーム式が一番よかったんだなと改めて思う。暖かい湯気というのもありがたい。ただいかんせんランニングコストが…。こうしてみると、かつてのあの「石油ストーブの上にやかん」方式はある意味最強だったんだな、と思えてくる。方式はシンプルこの上なく手入れも楽。暖かい蒸気で加湿できる上、ランニングコストは暖房する"ついで"なのだ。もちろん石油ストーブは室内の酸素を使いまくるので空気が汚れるのを避けられないし、灯油で直接火を燃やすので安全性の面からも注意が必要なのだが。

 だからできれば火を使わず空気を汚さない電気式の方がいいのだが、やはりランニングコストが…と考えた時、ふとひらめくものがあった。電気式で、電熱でもなく、火も使わずに水を沸かす方法が今はあるじゃないか。そう、IHヒーターだ。実は今までIHはほとんど使ったことがなかったので馴染みがないのだが、これなら直接熱も発しないし電熱よりははるかに効率よく水を沸騰させることができるだろう。ポータブルな卓上IHヒーターを買ってきてその上にやかんの水を入れて置く、それだけで消費電力もそこそこで蒸気を発する、スチーム式の欠点を克服した加湿器代わりにならないだろうか。

 いや、でもそれだけではつい何かに引っかけてやかんをひっくり返すと大惨事になりかねないな。さらにもう一歩進んで、小型IHヒーターとその上部に水を入れて蒸気吹出口をつけた備え付けのタンクを設置して、どこでもコンセントひとつで蒸気を出せるスチーム式加湿器をどこかで出してくれないだろうか。これならば①手軽で②お手入れも楽で③衛生面からも安心で④空気を汚さず⑤安全性も高く⑥電気代もそこそこ⑦蒸気が暖かい、という各方式の欠点をかなりカヴァーできる仕様になる。さらにこの上部タンクを取り外しできるようにして、外すと普通に煮炊きできるIHヒーターとして使えるようにしたら…。これぞ「最強の加湿器」とでも言えるものにならないか。こういうアイディア家電が得意なアイリスオーヤマさん辺りが商品化してくれないかなぁ。