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「響け!ユーフォニアム」第2期への期待と不安

 今週からいよいよ「響け!ユーフォニアム」の続編、所謂"第2期"の放映が始まる。昨年、いい歳こいてこのアニメには思いっきりはまり、TVの総集編と知りつつ劇場版にまで手を出してしまった身としては、楽しみにしない訳にはいかない。
 一応言っておくと僕はクラリネットをやっていながら吹奏楽経験はない(中学・高校とも学校に吹奏楽部がなかった)。かなり重症なクラオタリスナーから楽器を始めたもので、現在に至るまで吹奏楽に関する知識はまったくといっていいほどないし、正直現在もさほど関心がある訳でもない。もちろんアニメを毎回チェックするようなアニオタでもない。
響け!ユーフォニアム」を知ったのもまったくの偶然だった。
 しかも知ったその日がたまたま第1回放映日。なんとなくその番組HPにアクセスしてみて、そこに載ってる番宣映像を観て「あれ?」と思ったのがきっかけだった。

 大体映像作品において楽器演奏シーンというのは昔っから鬼門と決まっている。まぁこっちが本物の演奏風景をさんざん見ていることもあろうが、俳優が楽器を持って演奏するシーンが出てくるとどうにもこうにも様になっていなくて見ていられない事が多い。楽器演奏の際、鳴らすために各楽器ごとにそれぞれそれに見合った息の使い方や筋肉の動きがあって自然とそれっぽいしぐさが生まれてくるのだが、実際に音を出さずに上っ面をなぞろうとしてしまうとしばしばまったく見当はずれの動きをしてしまっているのだ。往年の大ヒットドラマ「101回目のプロポーズ」(例が古くってすいません)はヒロインがオーケストラのチェロ弾き、恋のライヴァルがヴァイオリン弾きの設定なのだが、そこに出てくる演奏シーンの動きがあまりに珍妙なので思わず大爆笑してしまったことをはっきり憶えている。
 言ってみれば時代劇における"殺陣"の技術のようなものが必要なのかもしれないのだが、そういったノウハウがまったくなかったのだろう。

 だが近年はさすがにそういった所にも神経が行くようになったらしく、かの「のだめカンタービレ」のドラマなど、出演者に実際に楽器を触らせ、中には楽器経験者をキャストに加えるなどして少なくとも笑っちまうようなヘンテコ演技はなくなって、それ故に音楽ドラマとしてかなり見ごたえのあるものになっていた。(まぁ一番の功労者は、まるでのだめが憑依したかのごとき演技をしてみせた上野樹里だろうが)

 ただアニメともなるとまた話が違う。なにせこちらは演技ではなくいちいち絵を描いて動かしていかなくてはならないのだ。実際、ドラマに次いで放映されたアニメ版「のだめカンタービレ」は絵が動かない、動いても力感のない気味悪い動きが続出してこの点は惨憺たるものだった。もっともすべてが駄目というのではなく、途中いろいろ試行錯誤している様が伺えて、特に千秋がラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を弾くシーンなどかなり力が入っていて見応えがあった。とはいえそれが持続せず、その後はまた元の木阿弥に戻ったりして最後まで安定しなかった。ひょっとするとアニメにおいて楽器演奏をちゃんと描こうとしたのはここら辺が黎明期だったのかもしれない。

 話を戻すと「響け!ユーフォニアム」の番宣映像の中に演奏シーンがあったのだが、それが実に自然に見えた。特にチューバ吹きがその大型楽器を鳴らすために腹から深くエアを繰り出している様がしっかり見てとれて、ついつい見入ってしまったのだ。
 「これは面白いかも」そう直感して、第1回から録画予約して(いったいいつからアニメは深夜に放映されるようになったんだろう…)全話欠かさず観た。

 結論から言うと予想以上の出来だった。第1回からその音楽の取り上げ方が実に入念に作られているのが感じられるのだ。最初の方で舞台となる吹奏楽部の演奏がさっそく描かれているのだが、それを聴いてなんか感激してしまった。動き自体が不自然でないぐらいにそつなく描かれているのはもちろんのこと、流れてくる音が絶妙に「下手」なのだ。もともとこの部は「かつて強豪、今は落ちぶれてあまりうまくない」「内部にいろいろ問題を抱えている」部だという設定なのだが、その演奏、一応曲としては通っているが、リズムとか音程とかが濁りまくっていて、聴く人が聴きゃその至らなさが如実に"音で"伝わってくるのだ。それに僕は吹奏楽こそ知らないが学生時代から合唱やオケは経験してるし、そういった音楽系サークルの雰囲気というのが伝わってきて、ついつい見入ってしまった。

 そして回を追うごとに、サークルの楽しい所もそうでない所もいろいろ噴き出してくる。合奏練習が行われて、そこでまた演奏のダメダメっぷりがあからさまになり、それをきっかけに、この部が抱える隠れた"問題"・さまざまな軋轢が次々と表面化してくる…。音楽演奏サークルではありがちではあるけども身につまされるような事象が頻出して、妙にリアルさを感じさせて迫ってくる。
 そしてそれらをひとつひとつ乗り越えながらも次第に演奏自体の精度が上がってきて、部の雰囲気も上向きになってくる。それもひとつひとつ"音"でしっかりと表現される――製作スタッフの本気度がひしひしと伝わってきて、いつしかとりこになっていった。

 そうなると並行して原作小説にも手を出してみた。するとアニメがこの原作の骨子をしっかりと汲みとって作られているのが分かってくる。しかしガチガチ原作通りという訳ではなく、細かいところはけっこうアレンジを加えていて、そのアレンジもなかなか小気味よくっていい仕事しているのだ。それでいてここぞという所では原作のセリフをそっくりそのまま使っている所も随所にあり、原作を最大限生かしつつ独自な解釈も加えた、理想的な膨らまし方をしているように思えた。
 原作を読んだことによってその後の展開を知ることになっても、ネタバレとかそんな思いはなく、「このシーンをどのように描いてくれるんだろう」とその回が楽しみになるほどだった。そしてなにより、原作小説からは実際の音は一音も聴こえてきてはくれないが、前述のようにアニメでは"音"の作り込みも実に入念に作られて行く事が分かっているから、「これからのこの展開、これを、アニメでは"音"で実際に表現してくれるのかい? 」とむしろわくわくしてくるような思いだった。

 そして最も期待していたトランペットの再オーディションの場面、シチュエーションは多少アレンジを加えながらもその"差"をきっちりと音で表現してくれたのは期待以上だった。片や「うまいアマチュア」片や「プロ級」の音をきっちりと並べて有無を言わさぬ違いを出し、その後のセリフは、原作をそのまんま流用して使用し――これ以上は考えられない素晴らしい出来だった。

 そして最終回コンクールの本番、原作でタイトルだけ登場した架空の曲「三日月の舞」をアニメ用オリジナルとして本当に登場させてくれた。残念ながらかなり時間の都合で放送では大幅なカットがほどこされてしまっていて(サントラでは全曲が聴ける)、初めて視聴直後はその点が不満だったけども、一方で本番直前の雰囲気や舞台裏、演奏中に本番を控える他校の様子などをフラッシュバック的に挿入して多角的にコンクールの雰囲気を表現してくれたと思う。

 ――このようにこのアニメはストーリーはもちろんキャラクターの描き方・演奏風景の描写・音の入念な扱い、そのすべてにおいて十二分に満足できる素晴らしい出来だった。最近はこういうのを「神アニメ」と言うらしいが、まさしく自分にとっては文句なく「神アニメ」と言っていいと思う。


 その「神アニメ」の続編が制作されると聞けば素直にうれしい。なにせ原作は全3巻で、アニメはその最初の1巻しか取り上げてないのだ。(他に番外編1巻、さらに最近サイドストーリー全2巻も刊行された) だが前作が良かっただけに逆に不安もある。あのレヴェルの高さを維持してくれるだろうかというのももちろんだが、第1巻と第2巻とは原作の性格もちょっと違ってくる。第1巻は最初の話という事もあるが、キャラクターは全員初登場でその関係性が徐々に組み立てられていく過程が描かれ、その中で下手で問題を抱えていた吹奏楽部が組織として意識改革していって様々な事件を通して結束し、向上していく様が目の前で展開していた。だからアニメも毎回変化に富んだ、どの回も飽きさせない内容にすることができた。それが第2期はもう既に向上している吹奏楽部から始まり、これから先演奏内容もあれほど劇的な変化を耳で分からせるのは難しくなってくる。各キャラクターの関係性もほぼ固まってきて、新しい展開が出づらくなってきている。それに第2巻のストーリーはある意味ワンアイディアなのだ。第1巻でも触れられた昨年度の「1年生大量退部問題」、それがうまくなった(変化した)吹奏楽部の元、今一度浮かび上がってくる――。今回初登場となるキャラ2人を軸に、その新たな問題を掘り下げていくのがメインのストーリーになっていく。なかなか本質が見えてこない底の深い話で、小説を一気呵成に読んでいくには充分面白いのだが、1クールのアニメとして放映するには変化が乏しすぎないか?――。また最終話はやはりコンクールで、演奏する曲目も第1期と一緒、というのもネックになりそうだ。
 おそらく変化をつけるために、番外編エピソードをうまく引っ張り込んで膨らませてくることが考えられる(第1期でもそういう回があった)けども、うまく嵌りこむエピソードも限られてくるし、はたしてどれだけできるのか…。
 前回あれだけの仕事をしてくれたスタッフだけに期待していいとは思うのだが、初回いきなり1時間拡大版で放映するなんて聞かされると、後半息切れしないか?とちょっと不安になってくる。

 ま、もちろん実際に放映されてからでないと何とも言えないけども、どうか、こちらの不安を吹き飛ばし、驚くような作品になってくれることを願っている。あとできうるならば、最終回には今度こそ「三日月の舞」をノーカットで演奏するシーンを流してほしいな、と。