一条の光?

 「BCGが新型コロナウイルスの予防に一役買っているかもしれない」
 そんなニュースを聞いて非常に心強いものを感じた。僕の住んでいる東京はきのうと今日と2日続けてコロナ感染者が100人以上を数え、遂に累計感染者は1,000人を突破した。こんな出口の見えない、それどころか今まさに感染爆発前夜が危惧されているこの状況の中、この話は自分の心の中に意外なほどの安堵感をもたらしてくれた。
 もちろん現時点でBCGと新型コロナウイルスの因果関係はまったくつかめていず、あくまでも統計的な推論に過ぎない。しかしイタリアやスペイン、そしてアメリカではBCG接種が行われていず、ヨーロッパの多くの国で義務化されていない、という事実を聞くと、自分の中でなにか腑に落ちるものがあるのだ。

 それはアジアと欧米の間での致死率の大きな差だ。言うまでもないがこのウイルスは最初中国の武漢で爆発的な感染が始まり、日本を含むアジア全域に広まった後、遅れてヨーロッパでも広まり出した。中国の後、爆発的感染が起こったのがイタリアだった。その際目を瞠ったのは、その感染者の爆発的増大はもちろんの事、その死者が信じられないカーブで増大していったことだった。
 今までにないウイルスのため、すべては手探り状態でしかないのだが、中国で爆発的感染が起こった時にはじき出された致死率はおよそ2%、それにより新型コロナウイルスは感染力は強いが毒性はそれほど高くない、というイメージを最初与えた。しかしイタリアの死者はそれをはるかに上回るペースで増大し、致死率はぐんぐん上昇、現在はとうとう10%を越えてしまった。
 TVから流れて行くイタリアの医療現場の壮絶さには身震いさせられるが、それにしてもなぜ致死率にこれほどの差ができたのかは正直解せなかった。その理由の一つとしてイタリアでの医療崩壊、増大し続ける感染者にとても追いつけずに重篤患者を放置せざるを得ない状況に陥っている事が挙げられており、もちろんそれも大きな要因だとは思うが、それにしてもこれほどの差ができるものだろうか――。僕が一番恐れたのはウイルスがより毒性の強いものに変化しているのではないか?ということだった。ウイルスは突然変異を起こしやすく、インフルエンザなど毎年のように昨年とは少し違うものが発生してその都度ワクチン作りを強いられる。新型コロナウイルスも、ヨーロッパで流行したものは致死率10%に至るほどのより強力なウイルスに変貌しているのではないだろうか?。そんなものが今またアジアに逆輸入されたらひとたまりもない。目を覆わんばかりの惨状が展開されるのは目に浮かぶようだった――。(僕が今年もしオリンピックが開催されたとしたら…と最も恐れていたのはそれだった)

 日本も、東京を中心に現在感染者数の数がうなぎ上りに増えている。ほんとうに数日後には感染爆発("オーバーシュート"というカタカナは実感が伴わなくてなんか使いたくない)が起こっているかもしれないが…それでもやっぱり不思議なのは、感染者数に比して重体・重篤者、そして死者の数がそれほど伸びていないことだった。このペースで感染者が伸びて行ったら、今ごろ毎日数十人単位で死者が出ていてもおかしくないのに…。それとも医療崩壊が起きれば必然的にそうなってしまうのだろうか…? やっぱりアジアとヨーロッパのウイルスは別物なのだろうか…?

 そんな時に飛び込んできたのがBCG説だった。言うまでもなくBCGは結核用の予防接種で、腕の付け根に皮膚が引き攣れたようなBCG跡(ツベルクリン反応跡)がある日本人は多かろう。この結核用のワクチンが同じく肺に炎症をもたらす新型コロナウイルスにもなんらかの作用をもたらし、重症化を防いているのではないか?との仮説のようだが、最初に申しあげた通り現在では推測でしかない。しかし帰納的にではあるがBCGの接種率とコロナウイルスの被害者数とを見比べると明らかな因果関係が見て取れ、素人目にも「何かあるのではないか」と思えてしまう。もしやこの致死率の差は、BCGを打ったか否かの違いなのではないだろうか、と。

 今まで新型コロナウイルス感染者が重症化する条件として、高齢者や糖尿病のような疾患を前から持っている人、即ち基礎体力が低下している人が言われているが、それ以外にもBCG接種したかどうかの情報をぜひ見てみたいと思う。ちなみに日本でBCG接種が法制化されたのは1951年、そして志村けんが生まれたのは1950年2月…。志村はBCGを打ってなかった可能性が高い。もし打っていたらひょっとして状況は変わっていたかもしれないと思うとつくづく残念だ。

 もちろんBCGを打っているから安全だなんて口が裂けても言えないし、感染拡大を少しでも減らすための"3密"回避は極力厳守すべきことだ。しかしこの状況の中ではいずれ感染は避けられない気がするし、ひょっとすると無症状なだけで既に感染しているということだってありうる。だから"3密"回避やマスク着用は、予防と言うよりも、自分を感染者と仮定してウイルスを周囲にまき散らすことを回避するために必要という意識を持っておいた方がいい。
 それとともに、今はむしろ感染後に重症化しないことが重要に思える。感染しても軽く済めばそれで抗体を体に得ることができる訳だし…。しかしもし、まったく意識せずに子供の頃に打たれたBCGがその一助となるのであれば…それはこのコロナ禍を救う一条の光となるかもしれない。