ネットの力と「魔法使いの弟子」

 こんなニュースが流れてきた。
○ネットの「善意」の盲点 九州豪雨で「タオル大量送付」が起きたワケ
https://www.j-cast.com/2017/07/12303051.html?p=all

 事の発端は、今回の記録的な豪雨で九州中部で大きな被害が出たが、被災地の一つである日田市の女性が自身のFacebookで「タオルが足りない」と呼びかけた事だった。直ちに反応があり、呼びかけに応じて全国から次々とタオルが届けられた。わずか1日で十分すぎる量のタオルが揃ったので、女性はFacebookで「もう足りてます」と自ら打ち切り宣言をした。
 ――が話はこれで終わらなかった。その後も次々とタオルが届けられ、女性の許はタオルであふれかえり、その後何度「もういりません」と呼びかけてもその勢いは止まらない。要は最初の呼びかけを見た人がよかれと思ってブログやツィッターでその情報を拡散し、元記事を見たことない人たちがその孫引き・曾孫引きの記事を見て碌に確認せずに"善意で"タオルを送ってきたのだ。
 その他問い合わせの電話が元の女性の許にも殺到し、その数 日に100本、応対に追われて女性は大変な時なのに何も手がつけられなくなってしまったという――。

 このニュースを聞いてふと「魔法使いの弟子」の話を思い出した。元はゲーテの作品だが今はそれを基にしたデュカスの管弦楽曲やディズニーの「ファンタジア」の方で知られているだろう。師の魔法使いの留守中、水汲みを仰せつかった弟子が、聞きかじった魔法を箒にかけて代わりに水汲みをやらせる。瞬く間に十分すぎる水が汲み上げられたものの、その時になって弟子はどうしても魔法を解く呪文を思い出せず…。
 そのまま水は汲むに任せるままに溢れだして辺りは水びだし。思い余って弟子は箒を真っ二つに折るが、折れたそれぞれがまた水を汲み出すので倍のペースで水が運び込まれ…。

 今回の出来事、基本的に誰も悪気があった訳ではないが、良くも悪くもネットの力の凄さを端的に表したものだろう。あたかも"魔法"のように瞬く間に大量のタオルを呼び寄せたのだが、一回勢いがついたそれは拡散されることによって際限なく広がっていき、あたかも箒が2本にも、4本にも、無数に折れてそれぞれが水を汲み出すようにますます力を増していく。「魔法使いの弟子」では最後には師匠が帰ってきてたちまち魔法を解いて箒を元に戻し、どうにか収拾をつけるのだが、恐ろしいことに、ネットの力は一度火が点くと誰にも制御できなくなる。収拾をつける師匠はどこにもいないのだ。

 こういうニュースが流れるという事はそれなりに事態を収拾に向かわせる抑止力にはなると思うが――。ネットの力に振り回されて却って復興が遅れる事にならないよう、切に願っています。