レジェールリード右往左往

 前回、並クラでのレジェール使用をきっぱりあきらめた所(「リードが"へたる"とはどういうことか?」を書いたのもこの頃)まで書いたが、不思議なもので、そうなってみたらまた思いもかけない方面からレジェールに関しする出会いがあった。ちょっとわき道にそれるけども――バセットホルンでレジェールが使えるんじゃないか、という可能性だ。

 並クラやバスクラに比べてバセットホルンを使う機会は正直それほど多くはない。しかしそれからしばらく後クラリネットアンサンブルの練習に参加してバセットを吹いている時、休憩中に一緒に吹いていたプロの方のバセットホルンを吹かせてもらう機会があったのだ。
 興味津々で息を吹き込んでいの一番、もうびっくりした。すごい楽々と吹ける! 自分のバセットは重くて吹くだけでふうふうなのに、なんだこの違いは…。バセットはなかなかいい音が出せずにリード選びも試行錯誤していたのだが、その頃ようやく仕掛けも定まってきて音色は安定してきたもののとにかく重くて速い動きが苦手だったのだ。ところがこの楽器は軽々と音が湧き出してくる感じで、これだったら難しい譜面もさほど苦労せずに吹けそうだなぁなんて思いがよぎった。
 もっともその楽器は自分のとはメーカーもマウスピースも違ったのだが、この時その楽器についていたリードがレジェール。訊くとヨーロピアンシグネチャーだという。その時使ったのは33/4だが、リードケースには3半~4までが2枚づつセットされていた。その方の「たまにしか使わないからそういう意味でもレジェールはいい」との言葉に、またレジェール熱がむくむくと湧き上がるのを感じた。さらに僕の楽器を指して「そのマウスピースもレジェールが合うはず」と言われては…。

 という訳で、性懲りもなく5度めのレジェール試奏に乗り出すことになった。楽器は一応並クラも持って行ったけどもあくまでメインはバセットホルン。開店と同時に入店し、受付で「シグネチャーとヨーロピアンシグネチャー、3.5より上を」と申し出、念のため「何番まであるの?」と効くと4.5までというのでとりあえずそれぞれ2枚づつ用意してもらった。
 シグネチャーシリーズを吹くのは2回目の試奏以来だ。あの時はよく分からずに3.5までを全種類ずらりと並べて吹き比べたけども、結局どれも自分には薄い部類を吹いて「使えない」と判断してしまっていた。レジェールが総じて柔らかく、コシが弱いという特徴を考えると、もっと硬い部類のリードで試さなければ本当のことは分からないと気付くまでにだいぶかかった。
 今まで、最初のバスクラ用はともかく、以後はすべて買っておきながらリードをお蔵入りさせることばかり続けてしまった反省から、今度こそはとシビアな目でこの2つに賭けてみた。まずはB管でシグネチャーを、3.5から順に。2回目の時にベーベーで使い物にならないとすぐさま却下してしまったのだが、その後の経験からしてやはり一番頼りになるのはシグネチャーシリーズしかない、と思ったのだが――やっぱりコシがなさすぎる。その後どんどん番手を上げていったのだが、一番上の4.25(どうやら4.5は在庫切れだったらしい)でもどうも薄っぺらと言うか…。で次にヨーロピアンシグネチャーを試してみる。この寸足らずで有効振動長が短いのが気に喰わないのだが、どうやらカットが中央が盛り上がり気味になっているというのが気にかかる。そこで吹いてみると――うん、確かにシグネチャーよりもコシがあるように感じられる。でもまだ薄い。やはりどんどん番手を上げていって…最大の4.5にしてもまだちょっと…低音域はいいけども高音域は息に負けて音が開き気味になるをの感じる。 うーん、いろいろ試してみて、確かになかなかいい線まで行ってるのだが…もっと番手が高いものがあればひょっとすると…と言う気はする。並行してバセットホルンの方も試してみたのだが、こちらはヨーロピアンシグネチャーの番手の上の方ではかなりいい感じになってきた。こうしてみると、ケーンだなんだという素材よりも設計思想の方が影響が大きいのかな、という気がしてくる。バセットに関しては、一番上の4.5よりももう一つ下の4.25ぐらいがちょうどよさそうに感じた。
 ここで一旦出て店員さんに「ヨーロピアンシグネチャーの4より上を全部見せてください」と申し出る。ついでにダメもとで「ヨーロピアンシグネチャー、4.5以上ってないんですか?」と訊いてみたが、やはり「ありません」との答えだった。
 改めて4枚づつ出されたヨーロピアンシグネチャーの4.25と4.5をバセットにつけて順に吹く。やはり4.25の方がぴったりの厚さだと感じる。そして4.25の4枚を吹き比べてみるうちに――1枚妙に妙にしっくりくるものを見つけた。最低音域はもちろん、高音域もきっちりとぶれずに当たるのだ。いわゆる当たりリードの感触があった。ふと思いついてこれをB管につけてみても…。うん、最善ではないにしろわりかし音がまとまるのを感じる。最悪の場合使って使えない事もないような気がした。
 気がつくとあっと言う間に1時間が経過していた。結論も出たので、その4.25を1枚購入する。どうやらバスクラに続いてバセットもレジェールで行けそうな目途が立ってきた。こちらもリードでかなり悩んできたけど、レジェールが最善の選択、という事になりそうな気がしている。並クラについても一応の結論が出たので迷いがない。とりあえずリードの育成で悩むのは並クラだけで済みそうだけど、もちろん一番吹く機会の多い楽器だからこそこだわったっていいじゃないか、とその時は思った。

 こうしてバセットホルンもどうやらレジェールになったのだが、これがまた思わぬ流れにつながった。このバセットを持って出て、またクラリネットアンサンブルに参加して初めて人前でレジェールを吹いたその日のことだった。その日、参加者の一人が所蔵するマウスピースを売りたい、と20個近くもずらっと持ってきていたのだ。値段は「ひとつ5000円均一」。いろんなメーカーのが並んでるし、値段も手ごろなのでひとつ試しに――といくつか吹いているうちに、なんか具合がいいのに出会った。音がすっと自然の伸びてしっくりまとまる。しばらく吹いているうちにすっかり気に入り、その場で購入してしまった。
 そのマウスピースがNickのもの(「Play Easy」ではない)だった。ちょうど「マウスピースの洗浄、その試行錯誤」で書いたようにそれまで使っていたマウスピースが急に具合が悪くなってきた時だったので、ちょっとわくわくしながら、その翌日にあった別の練習の時に早速持っていて試してみた。
 ――が、なんかきのうと様子が違う。妙に息が詰まるし、音もまとまっているが伸びない感じが…。あれ、と思いつつ、これでは練習に支障が出そうなので急遽念のために持ってきていた今までのマウスピースに替えて乗り切った。こうして書くと結局自分がいかに試奏する時に見る目がないか、が露見してしまうのだが、事実なんだからしょうがない。

 ここまでが昨年末のこと。Nickのマウスピースも何度か取り出して吹いてみたけども、今までのリードだと(吹き心地はいいのだが)なんだか吹ききれないものを感じていた。しかし年が明けてまもなく、ふと「このマウスピースにレジェールリードを使ってみたらどうだろう」と思いついた。今までレジェールは全般的にコシの弱さが気になっていたのだが、今までのリードでは息が詰まる感じになるこのマウスピースと合せればひょっとしてちょうどバランスが取れるんじゃないか、そんな気がしてきたのだ。
 なのでさっそくNickのマウスピースに、先日バセット用に買ったヨーロピアンシグネチャーをつけて吹いてみる、と――おおっ、レジェールリードが暴れずにしっくりと鳴る。近頃それまでのマウスピースだとすごい軽く鳴るのにフラストレーションが溜まっていたのに、Nickとレジェールの組み合わせだとしっかりと息を受け止め、ちょっと変な言い方だがどこか遠くの方で鳴っているように聞こえるのだ。
 この仕掛けでエチュードや曲を練習してみる。そしてレジェールの更なる特徴を感じた。やはり自然物でないせいか、どこでもむらなく非常によく鳴ってくれるのだ。今まで散々右往左往してきたけども、ようやくレジェールを並クラで使う道筋を見つけた瞬間だった。バスクラやバセットはそれまで使っていたマウスピースがそのまま使えたから気がつかなかったが、やはりリードを替える以上、マウスピースとの相性を込みで考えなければいけなかったのだ。ただ「Play Easy」で1回失望しているためになかなかそちらには目がいかなかったのだが、Nick自体はやはりレジェールとの相性がいいマウスピースだということが言えるみたいだ。

 それからはNickマウスピースとレジェールの組み合わせで吹くことが多くなり、今ではケーンのリードを使うことがほとんどなくなってしまった。そして先日、レジェールで初めての本番も経験し、現在もこの仕掛けで吹いている。吹くうちにやはりまだレジェールに逡巡することが多々あるが、どうやらここに、長く右往左往した「レジェールリード狂騒曲」も一応の帰結を見ることになりそうだ。