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レジェールリード七転八倒

 レジェールリードに関してかなり長い事懐疑的だったことは前回も述べたけど、バスクラで非常に好感触だったこともあってその認識が一変した。その後バスクラをレジェールで何度も吹き、本番も経験するうちに、慣れてきたこともあるのだろうが、その音色や抵抗感、そして安定性を総合的に判断したところ、むしろ「今まで使っていたどのケーンのリードよりもいいんじゃないか」という風にすら思えてきたのだ。

 これは強烈な"成功体験"だった。バスクラでこれだけの成果があがってみると、並クラでも今まで通りケーンのリードを吹いていても「この音がレジェールでも出たらいいのにな」と自然に考え始めるようになるまで時間はかからなかった。
 ただしバスクラと違って、並クラの方は当時リードに問題を抱えていた訳ではない。数年前にヴァンドーレンのブラックマスターを気に入って以来、その取り合わせにとりたてて不満なく使い続けていた。ブラックマスターが1度仕様変更した時は苦労したものの、マウスピースの開きを少し狭いものに替えることによって乗り越えることができ、手持ち在庫も当面困らない程度あって危機感はなかった。
 それでも練習で使っていて、使っているリードが非常に調子がよければよいで、いつもこんな風に吹いていたい――しかしこのリードもこの調子で吹いていたらじきにヘタっちゃうんだよな、という考えが頭をよぎるようになった。レジェールだったら気にせず使い続けられるのに…と。そうなったのもバスクラの"成功体験"があるからだろう。
 その想いが急速に膨らんでいき次第に我慢できなくなって、程なく並クラ用のレジェールリード試奏をしてみようと件の楽器店に連絡を取った。

 2回目の試奏。事前に下調べをしたところ、並クラ用には思った以上の種類があることが分かって困惑した。スタンダードとシグネチャーはもちろん、他にケベックとエーラー、さらに最近発売になったというヨーロピアンシグネチャーと5種類もあるのだ。
 何がどうだかと言葉で説明を受けたって分からない。とりあえず全種類吹いてみようと、店員に3~3半あたりを一揃い(3×5=15種)お願いした。しかしその範囲で全て揃ってるのはスタンダードとシグネチャーのみで、新製品のヨーロピアンシグネチャーは人気が高く3半がなく、エーラーは3番が「今ちょうど使われてる」とのことで31/2と3半のみ。そしてケベックも3半以上しかないということで3半のみ運ばれてきた。
 さて――とまずB管にスタンダードの3半をつけて吹いてみると――息を入れていきなりとんでもないベーベー音が出てとてもじゃないが吹いてられない。すぐさまシグネチャーの3半に――。しかしバスクラでは予想外の成功だったシグネチャーも、ここではスタンダード同様ペナペナ。ヨーロピアンシグネチャーの3半はかなりの幅広タイプでちょっと期待したんだけども、これまたシグネチャー以上に薄っぺらい。ひそかに期待していたケベック…。これもかなり薄い。ここまでことごとく、一息吹いただけでダメ出し出るような状態、ああ、考えが甘かったかと一気に落ち込んだ。最後に試したエーラーの3半は逆に硬すぎて自分にはうまく吹けない。エーラーらしい幅の狭いリードはその分硬く作られているのだろうか、かなり高負荷で僕の息をがっちりと受け止めてるが碌に振動してくれない。それではと31/2にすると少し改善するがまだ固い。3番を試してみたくなるがないものは仕方ないし、これまでの状況から正直これ以上試す気力が萎えていた。
 とはいえこの中でケベックだけはちょっとだけ望みがありそうな気がした。3半でも薄いけども、もっと上ならばひょっとして…。で「ケベックの33/4ってあるんですか?」と店員に訊くと、あるとのことなのでそれを改めてお願いし、今までのは「ケベック以外はもう結構です」と返した。
 少し経って出てきたケベックの33/4が在庫品2枚、あ、さっきよりも音が落ち着いてきたようだ。うん、今日吹いた中で一番まともな音が出たが、なんか弱音ならいいが強く吹くと、なんかリード全体が共振するような妙な響きが混ざっていただけない。これは前回のバスクラの時も感じたので、レジェールリード全体の問題点なのかもしれない。でも感触やリードの横幅の感じから言って、ブラックマスターとちょっとタイプが似ているような気もした。2枚を吹き比べてみると、若干一方ががもう一方よりも左の方が音がまとまっているような気がしたので最終的にそちらを選択して購入した。前回は20分とかからず決定したが、2回目の今回は1時間近く迷いに迷っての選択だった。やはり並クラの方は今まで音色等で試行錯誤を繰り返してようやく今のリードを見つけ、そこに行きついた経緯があるし、音色にも一番こだわりがある。レジェールの限界みたいなのを感じさせる2回目の試奏だった。

 でも、これだけ迷いに迷って選択したこのリード、もちろん買って帰ってからもいろいろ試してみたのだが、やっぱりケーンのリードとのとの落差があまりに大きすぎ、どうしても人前で吹く気にならずにしまい込んだまま使わなくなってしまった。これに懲りてレジェールの事をきっぱり切り捨てられれば良かったのだが、それでもやはりバスクラの成功体験はなかなか忘れられない。(というかバスクラはもっぱらレジェールを使うようになっていた) バスクラではこんななのにどうして並クラでは――との思いがまたくすぶり始めた。考えてみたらこの時の試奏では結局吹かなかった領域があることに気づき、そこを攻めていったらあるいは――と気になって仕方なくなってしまった。

 そしてしばらく間を置いて3回目の試奏に向かう。その頃はもうダメならダメで決定的にダメ出ししとかないと安心してケーンのリードを吹けそうにない所まで精神的に来ていた。今回の試奏対象は「ケベックの4番以上とジャーマンの3番以下」。この前吹いてない、そして可能性のあると思うエリアをお願いしただけなのだが「変わった取り合わせですね」と店員に言われる。そして前回もケベックが品薄だということはちょっと聞いていたのだが、どうやらこのケベック、もう製造中止らしい。つまり今ある在庫のみということか。でも逆に人気がないのか、4番以降だけでもずらりと在庫があった。
 まずはケベック。4番以上になるとさすがにちょっと骨がありそうだが、それでも本気で吹いてみるとなんかリードが息に負けた感じで、開いた音になってしまう。じゃあ次、と41/4・41/2・43/4…とどんどん厚いのにしていき、とうとう最後の5をつけてみたが――それでもやはり本質的に変わらない。形状や吹奏感からいってウィンナぽいと思ったケベックだが、結局のところ硬さが変っても腰の弱さは変わらない。だからすぐ負けてしまうみたいなのだ。ここでケベックは完全に見切りをつけた。
 続いてジャーマンに移る。エーラー吹きであるが普段からウィンナリードを使ってる身としてはなんかすごい細身に感じる。2回目の時、他は皆薄く感じたのにジャーマンだけは「硬くて吹けなかった」という真逆の印象だった。ということはこのやわらかい方で活路があるのではないか、と思って今回試してみたのだが――幅が狭いせいか、吹くプレッシャーが強いのは確かだが、それでもやはり本質的に、吹いてもリードが息に負けて開いた音になってしまうというのは同じだった。こうしてみると、ジャーマンってスタンダードの幅を単純に狭めただけじゃないのか?
 いったいバスクラでのシグネチャーの大当たりはなんだったのか…。並クラではレジェールはやはり使えないのだろうか――次々ととっかえひっかえ、時折現行リードを交えて比較しながら吹いていた時、ふとあるリードを吹いてみて(なんか違う)という感触があった。(あれ、今吹いてるのってレジェールだよね) それはジャーマンの23/4だった。やにわに注意を集中していろいろ吹いてみる。うん、悪くない。確かにやや薄っぺらい感じだけども、今日吹いた他のどのリードとも違ってこれだけは音がまとまる。どういうことだ?ともう1枚あった同じ23/4を取り換えて吹いてみると――ああ、やはりベーベーと薄っぺらい音がする。その上の3にしてもやはり薄い。また最初の23/4に戻すとやっぱり音がまとまる…。一瞬混乱したけども、どうやらこの中でひとつだけ、僕にとっての"当たり"が存在したことが認識できた。レジェールは工業製品で同一設計同一品質だから、当たり外れはあまりないと聞かされていたのだが、案外そうでもないらしい。同じ23/4でもこれだけ違うんだから。そしてそれは硬度の高い3にしたところで腰が強くなるわけでもない――。"硬さ"と"腰の強さ"は別物なんだと非常によく分かった気がした。とにかくこの感触が勘違いではないかとしばらくいろいろ吹き続け、確信に変わった所でそのリードを間違えないようにひとつ離して置き、それを購入した。

 ――なのだが、結局このリードも使わなくなった。あれこれと何枚も試奏しているとその中ではいい感じがするのだが、結局"比較的"な問題で、いざ帰っていろいる吹いてみると、音もレスポンスもどこか中途半端で、ケーンのリードにはかなわない、という結論に達してしまうのだ。

 試奏しておきながら結局使えないリードを2度まで購入してしまった結果になり、反省して一度は並クラでレジェールを使う事をあきらめようとも思った。なのにしばらくしてまた挑戦しようと思ったのは、「リードのことばかり考えていたからじゃないか?」とふと気になったからだった。

 それで次に狙ったのは「Play Easy」。これまでは今使っているマウスピースに合ったレジェールリードを探してきた。しかしその望みが絶たれた今、マウスピースとの取り合わせまで含めてレジェールリードを考えるべきではないのか?と思い立ったのだ。「Play Easy」はオーストリアの新興マウスピースメーカーとして話題のNickが、レジェールリードで吹くことを前提に開発し、リードとセットで販売しているものだ。リードもこのマウスピースに合わせて調整しているらしいし、これで吹けば新たな可能性があるのではないか――。そうして4回目の試奏に向かった。

 ただ――もうくどくど書かないが、この試みもまた徒労に終わった。試奏してみて、ここで使われるリードもスタンダードと大差ないようだし、マウスピースと合せても、まぁせいぜい「悪くない」と言う程度だった。今までの手痛い失敗から、この程度では結局またお金をどぶに捨てることになってしまう…それが見えてしまった。それでもその中からけっこうよさそうに思えたリードを単品で1枚買ってしまったのはまだあきらめがつかない表れか。

 そしてこのリードも結局前2枚と同じ道を歩み、リードケースの肥やしとなっていったことは言うまでもない。。
 こうして3枚も立て続けに似たような失敗をしてしまったため、さすがにここはレジェールをあきらめた。バスクラの方は相変わらずレジェールを使っていたので、それでも時折むくむくとレジェール熱が再燃しそうになるが、そんな時は手元の3枚のリードを引っ張り出して吹き「所詮こんなだぞ」と改めて自分に思い知らしめることによって気を鎮めていた。

 さらにもうひとつ決定的だった出来事が、これと前後して、以前からお世話になっているプロのクラリネット奏者の指導を受けた時にあった。その方が最近レジェールを使っていることをその時初めて知ったのだが、レジェールに関する貴重な話を伺うとともに、その方が自分で今使っているレジェールリード(ヨーロピアンシグネチャー)をちょっと吹かせてもらう機会にも恵まれたのだ。はたしてどんな具合か、自分のマウスピースに付けて吹いてみたが――それでも印象は大きく変わらなかった。プロの奏者が自分で吹くために選定したリードである、間違いなく選りすぐりのレジェールリードとみていいだろう。それを吹いてですら自分の印象が変わらないとすれば…これはもう自分にはレジェールは向かないと断言していいだろう。これでもう本気であきらがついた、とこの時は思った――。

 と、このようにレジェールリードを巡って七転八倒の大騒ぎをして一旦はあきらめておきながら、この病気は一旦罹るとなかなか抜けてくれないらしい。この後さらに右往左往し続けることになるのだった。