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リードが"へたる"とはどういうことか?

クラリネット リード

 「1周回って知らない話」といえば最近やってるTV番組だけども、それとは別に、気がつけば自分のまわりにもずっとやってるのに改めて考えてみるとどういうことか分かってない事があることにある日突然気がつかされたりする。そういうのって「今さら他人(ひと)には訊けない」感じだし、はたして本当に答えがあるのかも疑わしいことすらある。

 振り返ってみるとクラリネットを始めてかれこれ30年余り(ブランク10年を含む)、ずっとこの楽器と付き合いながら、今になって「ひょっとしてずっと勘違いをしてきたんじゃないか、これ」と最近不安になってくることがある。それは…。

 リードは"へたる"とどうなるか?

 クラリネットを含むリード楽器にとってリードは言わば生命線であり、これなしでは1音たりとも発することができない。そのリードは伝統的にケーンと呼ばれる葦の一種(正式名称:Arundo donax/和名:ダンチク)で作られており、植物性であるが故に、吹くと唾液を吸って、さらには細かく振動されることによって必然的に変質していく。

 リードの良し悪しは吹き心地や音色に大きな影響を与えるので、楽器を吹く上でこだわらずにはいられないものだが、自然物だけに出来不出来の個体差が大きく、かつその日の湿度気温・吹くことによる変質によって状況は常に変わっていく。この前すごいよかったリードが今日は全然ダメということも珍しくはない。
 変質した結果、吹くのに適さなくなったリードの事を"へたる"と呼んでいるのだが、あまりに当たり前に使われてきただけに、はたして"へたる"というのはどう変わっている事か深く考えたことがなかった。

 考えるきっかけを与えてくれたのが、次のHPだった。

○「木管材質工学研究室 楽器奏者の方向けページ」
http://www.u.tsukuba.ac.jp/~obataya.eiichi.fu/musician/musician.html

 リードの変質について、奏者の側からいろいろ語られた文献は多いが、かなり経験則的な側面が強い。それに対しこのページは元々葦に代わる木製(ヒノキ等)クラリネットリードを研究開発している所のもので、数年前にPipersにもその記事が載ってたことがあるけども、その後現在に至るまでも商品化される気配がないところをみると、やはりなかなか難しい所があると推測される。けどその研究の過程で、現在主に使われているリード用葦の特性から始まって、吹くことによって硬度や弾力がどのように変わっていくのか、科学的な側面から計測して解説したもので、このようなアプローチはちょっと他では見たことがなかった。

 ただ、そのようにして変質することは分かっても、実際にそれが吹奏にどのような影響を与えるかという部分に関しては、推測と言うか仮説の域を出てないような…。そこにこの研究の限界みたいなものが垣間見えるけども、結局そこのところは各人の感覚で埋めるしかないのだろう。
 それにしても読んでいって、そして自分の経験と照らし合わせていろいろ思い当たるところとかあって興味深い。例えば以前から「おろしたてのリードはほの甘い」と思っていたのだが、実際に葦には糖分が含まれており、口に含んでいるうちに溶け出してきているのだとの記述を読んで腑に落ちた。そして、糖分を失うことがリードの変質に大きく関与していることがわかってくるのだ。
 しかしそうして自分がリードに関して最近感じた感覚と照らし合わせていくと…最初に挙げた「リートって、"へたる"とどうなるのだろう?」というあまりに当たり前すぎて深く考えなかった疑問にぶち当たってくるのだ。

 おろしたての乾いたリードは堅く、吹いてもまともに音なんて出てくれない。それが舐めて水分を含ませることによって徐々に柔らかく、振動しやすくなる。しかし吹いていくうちにそれがどんどん柔らかくなってコシがなくなり、いつしか音がベーベーとなってきて"へた"ってくる。それがリードの寿命だと単純に考えてきた。
 実際、このHPでもリードを湿らせることによって柔らかくなり、さらに糖分が減少することによって柔らかくなる、と書いてあるし、両者は合致しているように一見思える。

 しかしなんか最近吹いていて、リードの変質には別の面があるのではないか?という気がしてきてしょうがないのだ。それは最近、いろいろフォーム改造してきた成果で自分のブレスが深くまっすぐにすることができたおかげだと思うのだが、今まで使ってきたのと同タイプのリードでも、最近は新品を開封して最初に吹いた時、妙に薄く感じるようになってしょうがないのだ。ただ前から使ってたリードは別にそんなことはないので不思議だった。最初は単なる個体差でこの箱がはずれだと思ってたのだが、他の箱を空けても大差ない。いったいどういうことだ、と思いながら新品リードを時折ちょっとづつ慣らし運転しているうちに、なんだかだんだんしっくりと落ち着いてきたのだ。

 なんでだ…と考えているうちにちょっと仮説を立ててみた。このHPにもリードを濡らすことによって"柔らかく"なると同日に"弾力が喪失"することが書かれている。それが"へたる"原因だとも。
 ただ逆に言えば、"弾力が喪失"するというのは反応が当初より悪くなり感覚的には堅く感じることにも繋がるのではなかろうか。
 前述の、最初薄く感じたリードが徐々にしっくりいく感覚を改めてまとめると、おろした当初は薄く感じ、かついわゆる"風音"が混じっていたリードが、ちょっとづつ吹き続けていくうちに徐々に音がまとまっていき余計な雑音が取れ、程よい抵抗の中まっすぐストレートに鳴るように変化していくのを感じるのだ。言い換えると、柔らかくというよりもむしろリードにだんだん"コシ"が生まれていくような気がする。
 さらに吹き続けていくとその抵抗がどんどん強くなり、吹くのに余計な力がいるし音域ごとに鳴り方のツボが違うために音がバラバラになっていき、抵抗の強さゆえにタンギングなどがどうしても重くなってしまう。しかし僕はつい最近まで「まだ柔らかくなってないから大丈夫」とばかりにそうしたリードを無理矢理吹いていたのだ。しかし…改めて考えてみると、これは自由に吹けないほど"弾力が喪失"したリード、即ち寿命じゃないか、と気づき、そうなっているリードをすべてへし折って(未練を断ち切るためにいつもそうしている)ごみ箱に捨てた。そうしたらリードケースの半分近くがなくなって一気にスカスカになってしまったが。

 そして今、薄めに感じるリードを間をおいて少しづつ吹きながら、程よい抵抗がついて熟成するのをじっくり待っているところだ。つまりリードの育て方が180°変わってしまった。かつては厚めに感じるリードが柔らかくなるのを待ってたのに、今は薄めに感じるリードに程よい抵抗がつくのを待っている…。

 はたしてこの感覚が正しいのかどうかは自分でもわからない。でも最終的には自分が納得しなければ吹けないし、これもまた試行錯誤の一過程と割り切って開き直るしかない。
 これを誰かが読んだら「えー、それ絶対おかしい」と思うのか、「なんだ、そんなことも知らなかったのか」と言われるのか。答えを知りたいけども一方で「いまさら訊けない」小心者の自分がいるのだ。