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レジェールリードと合理主義

 年明けに並クラもレジェールに移行して4か月。バスクラはもう1年余り前からレジェールにしていたけども、やはり並クラでも使っていると自分がレジェール使いになったんだという気持ちが強くなってきたのを感じる。
 それと共に、吹き方全般いろんなことが、レジェールリードを前提として少しづつ変わってきた。その変化はレジェールの特性と密接に関係していることから、一部「レジェールリード狂騒曲」と内容が重複するけども改めてまとめてみたいと思う。

 レジェールの一番の特徴はなによりその安定性にある。ケーンのリードを使っている時は、その時の気温や湿度によって、また吹いている最中も絶えず調子が変わっていってしまう。吹く際にはアンブシュアやらブレスコントロール等いろいろ気を付けることがあるけども、それと共に、言わば最重要要因として「その時のリードのコンディション」が確実に存在するのだ。
 どんなに体調が良くても、またどんなに奏法に気を付けてもリードが悪かったらうまく吹けない、リード楽器には宿命的にそういうところがある。もちろんリードの責任ばかりにはできない自分の未熟さはあるのだが、思わずリードのせいにしたくなる(その方が精神衛生上よろしい)時もある。
 一方どんなに調子よく吹けていても、リードが「吹き減り」するものである以上、この調子は長くは続かない。あえて長持ちさせるために、絶好調で吹いているのを中断して泣く泣く別のリードに交換して吹くというのもよくある。そして替えた途端なんか音がしょぼくなったり立ち上がりが悪くなったりして、というのも日常茶飯事だ。
 そのために絶えず複数のリードを準備して調整していいものを揃えようと日々努力するのだが――絶えず変化を続けているリードには常に泣かされて、思わず諸行無常を感じてしまう。

 またどんな調子のいいリードでも乾燥してては鳴らず、まずは口に含んで湿らせるのだが、水分がちゃんと中に浸透するまでは時間がかかるので調子が出て来るまでどうしたってタイムラグが発生してしまう。「ちょうどいい」と思うよりも硬めのリードがいいのか柔らかめの方がいいのかも問題で、柔らかめの場合はつけてすぐ鳴るけども次第に柔らかすぎてベーベーになったりするし、最初は我慢して硬めのリードをつけてじっと中まで浸みてちょうどいいところまで柔らかくなるのをじっと待つ、とか状況に応じて様々な事象が発生してしまう。

 しかしレジェールリードの場合、そんなことを気にすることなくすぐに吹きはじめられ、水が浸み込んでリードがバテることを気にすることもなく吹き続けられる。ケーンのリードの場合、リードという必要不可欠な不確定要素が自分と楽器の間に必ず介在しているのだが、レジェールリードを使うことにより、その不確定要素が非常に安定したものへと変わってくれるのだ。

 逆に言うと今までうまく吹けなくても「いいリードがなくってさぁ…」とリードに責任転嫁することができた。レジェールだとその逃げ道をふさがれてしまい、いよいよ自分の技量で勝負する羽目に陥るのだ。今までは自分のせいなのかリードのせいなのか原因がはっきりしない事もあったが、これからは100%自分のせいなのだ。
 なにせ同じように吹けば同じように鳴る事が保証されてしまっているのだ。これはこう吹けばこう鳴る、という因果関係があからさまになることでもあり、こうして追い詰められることにより、改めて自分の奏法をじっくりと見つめ直す機会ができた。

 こんな体験をしているうちに、ずいぶん前に読んだ会田雄次の「合理主義」(講談社現代新書)という本を思い出した。
 この本を読んだのはまだ学生時代の事だったと思う。西洋人・東洋人・そして日本人の比較文化的な内容ではあるが、その主眼を「なぜ合理主義が西洋で生まれ、東洋では生まれなかったのか」に置き、その論拠として和辻哲郎の歴史的名著「風土」を下敷きに、東西の自然環境の差が合理主義の有無を決定づけたのだと述べられている。
 簡単に要点だけ述べると、西洋では東洋に比べ風土が安定しており、天変地異の落差が少ない。肥沃さという意味では東洋の方が西洋よりもはるかに上回っていたのだが、その分西洋の方が変化が少なく、人間が自然を"御しやす"かったのだ。そのため農耕でもどれだけ作業すればどれだけ収穫が見込めるか、といった計算がしやすく、因果関係をはっきりすることができた。そこに合理主義が生まれる土壌があった。一方東洋では同じように作業をしても、大地が肥沃であるだけにいい時は大変な豊作に恵まれるが、大雨・洪水・地震といった自然災害を始め、他にも蝗害といった不確定要素が多々あり、「これだけやればこうなる」という計算がしにくい。どんなに努力してもひと度こうした災害に巻き込まれれば無に帰すことは珍しい事ではなかったからだ。言わば西洋が「ローリスク・ローリターン」だったのに対し、東洋は「ハイリスク・ハイリターン」の風土だったのだ。東洋に置いてこれら災害は人知の及ぶところではなく、こうした環境では合理主義は生まれづらい。結果として代わりに生まれたのが、人の力ではどうにもならない力:"神"の概念だった。"神"の概念はもちろん洋の東西を問わずあるが、西洋の"神"が非常に観念的なものなのに対して、東洋は自然信仰に基づく土着的なものが多い。風土の違いが、ひいては西洋では「合理主義」を生み出し、東洋では「自然神」を生み出した――と。今から思えばいささかスパッと単純化しすぎていて論の進め方も強引に思えるが(さらにこの本は「東洋の中でも日本人だけは…」と日本人論に進む)、読んだ当時はそれまで考えてもみなかった論理展開に非常に強い印象を受けたし、基本的に現在にも通用するのではないだろうか。

 レジェールリードの登場はクラリネットの奏法にこの本で言う"合理主義"的転換をもたらたと言っていいと思う。ケーンという天然素材は、それ故に演奏者の技量と演奏そのものとの間に介在する不確定要素となっており、両者の因果関係を必ずしも明確にするものではなかった。レジェールリードが最上のケーンのリードに匹敵するレヴェルにまで至ったと言う気はさらさらない。しかしシグネチャーの開発にあたり、往年のシカゴ響トップを長く務めたラリー コムズ他に協力を求めて以来、なかなか侮れない品質にまで上がってきている。ここまでくると「当たり外れが少ない」「環境的・時間的影響をあまり受けない」という安定性は、非常に大きな意味を持ってくる。
 リードと言う不可避だった不確定要素が取り除かれ、今一度、改めてアンブシュアやブレスコントロールといった自らの奏法を見つめ直し、磨き上げるこの上ない機会を与えてくれるものと言っていい。

 そんな面からも、僕はレジェールリードに非常に能動的な意義を見出せると、今、考えている。

レジェールリード右往左往

 前回、並クラでのレジェール使用をきっぱりあきらめた所(「リードが"へたる"とはどういうことか?」を書いたのもこの頃)まで書いたが、不思議なもので、そうなってみたらまた思いもかけない方面からレジェールに関しする出会いがあった。ちょっとわき道にそれるけども――バセットホルンでレジェールが使えるんじゃないか、という可能性だ。

 並クラやバスクラに比べてバセットホルンを使う機会は正直それほど多くはない。しかしそれからしばらく後クラリネットアンサンブルの練習に参加してバセットを吹いている時、休憩中に一緒に吹いていたプロの方のバセットホルンを吹かせてもらう機会があったのだ。
 興味津々で息を吹き込んでいの一番、もうびっくりした。すごい楽々と吹ける! 自分のバセットは重くて吹くだけでふうふうなのに、なんだこの違いは…。バセットはなかなかいい音が出せずにリード選びも試行錯誤していたのだが、その頃ようやく仕掛けも定まってきて音色は安定してきたもののとにかく重くて速い動きが苦手だったのだ。ところがこの楽器は軽々と音が湧き出してくる感じで、これだったら難しい譜面もさほど苦労せずに吹けそうだなぁなんて思いがよぎった。
 もっともその楽器は自分のとはメーカーもマウスピースも違ったのだが、この時その楽器についていたリードがレジェール。訊くとヨーロピアンシグネチャーだという。その時使ったのは33/4だが、リードケースには3半~4までが2枚づつセットされていた。その方の「たまにしか使わないからそういう意味でもレジェールはいい」との言葉に、またレジェール熱がむくむくと湧き上がるのを感じた。さらに僕の楽器を指して「そのマウスピースもレジェールが合うはず」と言われては…。

 という訳で、性懲りもなく5度めのレジェール試奏に乗り出すことになった。楽器は一応並クラも持って行ったけどもあくまでメインはバセットホルン。開店と同時に入店し、受付で「シグネチャーとヨーロピアンシグネチャー、3.5より上を」と申し出、念のため「何番まであるの?」と効くと4.5までというのでとりあえずそれぞれ2枚づつ用意してもらった。
 シグネチャーシリーズを吹くのは2回目の試奏以来だ。あの時はよく分からずに3.5までを全種類ずらりと並べて吹き比べたけども、結局どれも自分には薄い部類を吹いて「使えない」と判断してしまっていた。レジェールが総じて柔らかく、コシが弱いという特徴を考えると、もっと硬い部類のリードで試さなければ本当のことは分からないと気付くまでにだいぶかかった。
 今まで、最初のバスクラ用はともかく、以後はすべて買っておきながらリードをお蔵入りさせることばかり続けてしまった反省から、今度こそはとシビアな目でこの2つに賭けてみた。まずはB管でシグネチャーを、3.5から順に。2回目の時にベーベーで使い物にならないとすぐさま却下してしまったのだが、その後の経験からしてやはり一番頼りになるのはシグネチャーシリーズしかない、と思ったのだが――やっぱりコシがなさすぎる。その後どんどん番手を上げていったのだが、一番上の4.25(どうやら4.5は在庫切れだったらしい)でもどうも薄っぺらと言うか…。で次にヨーロピアンシグネチャーを試してみる。この寸足らずで有効振動長が短いのが気に喰わないのだが、どうやらカットが中央が盛り上がり気味になっているというのが気にかかる。そこで吹いてみると――うん、確かにシグネチャーよりもコシがあるように感じられる。でもまだ薄い。やはりどんどん番手を上げていって…最大の4.5にしてもまだちょっと…低音域はいいけども高音域は息に負けて音が開き気味になるをの感じる。 うーん、いろいろ試してみて、確かになかなかいい線まで行ってるのだが…もっと番手が高いものがあればひょっとすると…と言う気はする。並行してバセットホルンの方も試してみたのだが、こちらはヨーロピアンシグネチャーの番手の上の方ではかなりいい感じになってきた。こうしてみると、ケーンだなんだという素材よりも設計思想の方が影響が大きいのかな、という気がしてくる。バセットに関しては、一番上の4.5よりももう一つ下の4.25ぐらいがちょうどよさそうに感じた。
 ここで一旦出て店員さんに「ヨーロピアンシグネチャーの4より上を全部見せてください」と申し出る。ついでにダメもとで「ヨーロピアンシグネチャー、4.5以上ってないんですか?」と訊いてみたが、やはり「ありません」との答えだった。
 改めて4枚づつ出されたヨーロピアンシグネチャーの4.25と4.5をバセットにつけて順に吹く。やはり4.25の方がぴったりの厚さだと感じる。そして4.25の4枚を吹き比べてみるうちに――1枚妙に妙にしっくりくるものを見つけた。最低音域はもちろん、高音域もきっちりとぶれずに当たるのだ。いわゆる当たりリードの感触があった。ふと思いついてこれをB管につけてみても…。うん、最善ではないにしろわりかし音がまとまるのを感じる。最悪の場合使って使えない事もないような気がした。
 気がつくとあった言う間に1時間経過していた。結論も出たので、その4.25を1枚購入する。どうやらバスクラに続いてバセットもレジェールで行けそうな目途が立ってきた。こちらもリードでかなり悩んできたけど、レジェールが最善の選択、という事になりそうな気がしている。並クラについても一応の結論が出たので迷いがない。とりあえずリードの育成で悩むのは並クラだけで済みそうだけど、もちろん一番吹く機会の多い楽器だからこそこだわったっていいじゃないか、とその時は思った。

 こうしてバセットホルンもどうやらレジェールになったのだが、これがまた思わぬ流れにつながった。このバセットを持って出て、またクラリネットアンサンブルに参加して初めて人前でレジェールを吹いたその日のことだった。その日、参加者の一人が所蔵するマウスピースを売りたい、と20個近くもずらっと持ってきていたのだ。値段は「ひとつ5000円均一」。いろんなメーカーのが並んでるし、値段も手ごろなのでひとつ試しに――といくつか吹いているうちに、なんか具合がいいのに出会った。音がすっと自然の伸びてしっくりまとまる。しばらく吹いているうちにすっかり気に入り、その場で購入してしまった。
 そのマウスピースがNickのもの(「Play Easy」ではない)だった。ちょうど「マウスピースの洗浄、その試行錯誤」で書いたようにそれまで使っていたマウスピースが急に具合が悪くなってきた時だったので、ちょっとわくわくしながら、その翌日にあった別の練習の時に早速持っていて試してみた。
 ――が、なんかきのうと様子が違う。妙に息が詰まるし、音もまとまっているが伸びない感じが…。あれ、と思いつつ、これでは練習に支障が出そうなので急遽念のために持ってきていた今までのマウスピースに替えて乗り切った。こうして書くと結局自分がいかに試奏する時に見る目がないか、が露見してしまうのだが、事実なんだからしょうがない。

 ここまでが昨年末のこと。Nickのマウスピースも何度か取り出して吹いてみたけども、今までのリードだと(吹き心地はいいのだが)なんだか吹ききれないものを感じていた。しかし年が明けてまもなく、ふと「このマウスピースにレジェールリードを使ってみたらどうだろう」と思いついた。今までレジェールは全般的にコシの弱さが気になっていたのだが、今までのリードでは息が詰まる感じになるこのマウスピースと合せればひょっとしてちょうどバランスが取れるんじゃないか、そんな気がしてきたのだ。
 なのでさっそくNickのマウスピースに、先日バセット用に買ったヨーロピアンシグネチャーをつけて吹いてみる、と――おおっ、レジェールリードが暴れずにしっくりと鳴る。近頃それまでのマウスピースだとすごい軽く鳴るのにフラストレーションが溜まっていたのに、Nickとレジェールの組み合わせだとしっかりと息を受け止め、ちょっと変な言い方だがどこか遠くの方で鳴っているように聞こえるのだ。
 この仕掛けでエチュードや曲を練習してみる。そしてレジェールの更なる特徴を感じた。やはり自然物でないせいか、どこでもむらなく非常によく鳴ってくれるのだ。今まで散々右往左往してきたけども、ようやくレジェールを並クラで使う道筋を見つけた瞬間だった。バスクラやバセットはそれまで使っていたマウスピースがそのまま使えたから気がつかなかったが、やはりリードを替える以上、マウスピースとの相性を込みで考えなければいけなかったのだ。ただ「Play Easy」で1回失望しているためになかなかそちらには目がいかなかったのだが、Nick自体はやはりレジェールとの相性がいいマウスピースだということが言えるみたいだ。

 それからはNickマウスピースとレジェールの組み合わせで吹くことが多くなり、今ではケーンのリードを使うことがほとんどなくなってしまった。そして先日、レジェールで初めての本番も経験し、現在もこの仕掛けで吹いている。吹くうちにやはりまだレジェールに逡巡することが多々あるが、どうやらここに、長く右往左往した「レジェールリード狂騒曲」も一応の帰結を見ることになった、と言ってよさそうだ。

レジェールリード七転八倒

 レジェールリードに関してかなり長い事懐疑的だったことは前回も述べたけど、バスクラで非常に好感触だったこともあってその認識が一変した。その後バスクラをレジェールで何度も吹き、本番も経験するうちに、慣れてきたこともあるのだろうが、その音色や抵抗感、そして安定性を総合的に判断したところ、むしろ「今まで使っていたどのケーンのリードよりもいいんじゃないか」という風にすら思えてきたのだ。

 これは強烈な"成功体験"だった。バスクラでこれだけの成果があがってみると、並クラでも今まで通りケーンのリードを吹いていても「この音がレジェールでも出たらいいのにな」と自然に考え始めるようになるまで時間はかからなかった。
 ただしバスクラと違って、並クラの方は当時リードに問題を抱えていた訳ではない。数年前にヴァンドーレンのブラックマスターを気に入って以来、その取り合わせにとりたてて不満なく使い続けていた。ブラックマスターが1度仕様変更した時は苦労したものの、マウスピースの開きを少し狭いものに替えることによって乗り越えることができ、手持ち在庫も当面困らない程度あって危機感はなかった。
 それでも練習で使っていて、使っているリードが非常に調子がよければよいで、いつもこんな風に吹いていたい――しかしこのリードもこの調子で吹いていたらじきにヘタっちゃうんだよな、という考えが頭をよぎるようになった。レジェールだったら気にせず使い続けられるのに…と。そうなったのもバスクラの"成功体験"があるからだろう。
 その想いが急速に膨らんでいき次第に我慢できなくなって、程なく並クラ用のレジェールリード試奏をしてみようと件の楽器店に連絡を取った。

 2回目の試奏。事前に下調べをしたところ、並クラ用には思った以上の種類があることが分かって困惑した。スタンダードとシグネチャーはもちろん、他にケベックとエーラー、さらに最近発売になったというヨーロピアンシグネチャーと5種類もあるのだ。
 何がどうだかと言葉で説明を受けたって分からない。とりあえず全種類吹いてみようと、店員に3~3半あたりを一揃い(3×5=15種)お願いした。しかしその範囲で全て揃ってるのはスタンダードとシグネチャーのみで、新製品のヨーロピアンシグネチャーは人気が高く3半がなく、エーラーは3番が「今ちょうど使われてる」とのことで31/2と3半のみ。そしてケベックも3半以上しかないということで3半のみ運ばれてきた。
 さて――とまずB管にスタンダードの3半をつけて吹いてみると――息を入れていきなりとんでもないベーベー音が出てとてもじゃないが吹いてられない。すぐさまシグネチャーの3半に――。しかしバスクラでは予想外の成功だったシグネチャーも、ここではスタンダード同様ペナペナ。ヨーロピアンシグネチャーの3半はかなりの幅広タイプでちょっと期待したんだけども、これまたシグネチャー以上に薄っぺらい。ひそかに期待していたケベック…。これもかなり薄い。ここまでことごとく、一息吹いただけでダメ出し出るような状態、ああ、考えが甘かったかと一気に落ち込んだ。最後に試したエーラーの3半は逆に硬すぎて自分にはうまく吹けない。エーラーらしい幅の狭いリードはその分硬く作られているのだろうか、かなり高負荷で僕の息をがっちりと受け止めてるが碌に振動してくれない。それではと31/2にすると少し改善するがまだ固い。3番を試してみたくなるがないものは仕方ないし、これまでの状況から正直これ以上試す気力が萎えていた。
 とはいえこの中でケベックだけはちょっとだけ望みがありそうな気がした。3半でも薄いけども、もっと上ならばひょっとして…。で「ケベックの33/4ってあるんですか?」と店員に訊くと、あるとのことなのでそれを改めてお願いし、今までのは「ケベック以外はもう結構です」と返した。
 少し経って出てきたケベックの33/4が在庫品2枚、あ、さっきよりも音が落ち着いてきたようだ。うん、今日吹いた中で一番まともな音が出たが、なんか弱音ならいいが強く吹くと、なんかリード全体が共振するような妙な響きが混ざっていただけない。これは前回のバスクラの時も感じたので、レジェールリード全体の問題点なのかもしれない。でも感触やリードの横幅の感じから言って、ブラックマスターとちょっとタイプが似ているような気もした。2枚を吹き比べてみると、若干一方ががもう一方よりも左の方が音がまとまっているような気がしたので最終的にそちらを選択して購入した。前回は20分とかからず決定したが、2回目の今回は1時間近く迷いに迷っての選択だった。やはり並クラの方は今まで音色等で試行錯誤を繰り返してようやく今のリードを見つけ、そこに行きついた経緯があるし、音色にも一番こだわりがある。レジェールの限界みたいなのを感じさせる2回目の試奏だった。

 でも、これだけ迷いに迷って選択したこのリード、もちろん買って帰ってからもいろいろ試してみたのだが、やっぱりケーンのリードとのとの落差があまりに大きすぎ、どうしても人前で吹く気にならずにしまい込んだまま使わなくなってしまった。これに懲りてレジェールの事をきっぱり切り捨てられれば良かったのだが、それでもやはりバスクラの成功体験はなかなか忘れられない。(というかバスクラはもっぱらレジェールを使うようになっていた) バスクラではこんななのにどうして並クラでは――との思いがまたくすぶり始めた。考えてみたらこの時の試奏では結局吹かなかった領域があることに気づき、そこを攻めていったらあるいは――と気になって仕方なくなってしまった。

 そしてしばらく間を置いて3回目の試奏に向かう。その頃はもうダメならダメで決定的にダメ出ししとかないと安心してケーンのリードを吹けそうにない所まで精神的に来ていた。今回の試奏対象は「ケベックの4番以上とジャーマンの3番以下」。この前吹いてない、そして可能性のあると思うエリアをお願いしただけなのだが「変わった取り合わせですね」と店員に言われる。そして前回もケベックが品薄だということはちょっと聞いていたのだが、どうやらこのケベック、もう製造中止らしい。つまり今ある在庫のみということか。でも逆に人気がないのか、4番以降だけでもずらりと在庫があった。
 まずはケベック。4番以上になるとさすがにちょっと骨がありそうだが、それでも本気で吹いてみるとなんかリードが息に負けた感じで、開いた音になってしまう。じゃあ次、と41/4・41/2・43/4…とどんどん厚いのにしていき、とうとう最後の5をつけてみたが――それでもやはり本質的に変わらない。形状や吹奏感からいってウィンナぽいと思ったケベックだが、結局のところ硬さが変っても腰の弱さは変わらない。だからすぐ負けてしまうみたいなのだ。ここでケベックは完全に見切りをつけた。
 続いてジャーマンに移る。エーラー吹きであるが普段からウィンナリードを使ってる身としてはなんかすごい細身に感じる。2回目の時、他は皆薄く感じたのにジャーマンだけは「硬くて吹けなかった」という真逆の印象だった。ということはこのやわらかい方で活路があるのではないか、と思って今回試してみたのだが――幅が狭いせいか、吹くプレッシャーが強いのは確かだが、それでもやはり本質的に、吹いてもリードが息に負けて開いた音になってしまうというのは同じだった。こうしてみると、ジャーマンってスタンダードの幅を単純に狭めただけじゃないのか?
 いったいバスクラでのシグネチャーの大当たりはなんだったのか…。並クラではレジェールはやはり使えないのだろうか――次々ととっかえひっかえ、時折現行リードを交えて比較しながら吹いていた時、ふとあるリードを吹いてみて(なんか違う)という感触があった。(あれ、今吹いてるのってレジェールだよね) それはジャーマンの23/4だった。やにわに注意を集中していろいろ吹いてみる。うん、悪くない。確かにやや薄っぺらい感じだけども、今日吹いた他のどのリードとも違ってこれだけは音がまとまる。どういうことだ?ともう1枚あった同じ23/4を取り換えて吹いてみると――ああ、やはりベーベーと薄っぺらい音がする。その上の3にしてもやはり薄い。また最初の23/4に戻すとやっぱり音がまとまる…。一瞬混乱したけども、どうやらこの中でひとつだけ、僕にとっての"当たり"が存在したことが認識できた。レジェールは工業製品で同一設計同一品質だから、当たり外れはあまりないと聞かされていたのだが、案外そうでもないらしい。同じ23/4でもこれだけ違うんだから。そしてそれは硬度の高い3にしたところで腰が強くなるわけでもない――。"硬さ"と"腰の強さ"は別物なんだと非常によく分かった気がした。とにかくこの感触が勘違いではないかとしばらくいろいろ吹き続け、確信に変わった所でそのリードを間違えないようにひとつ離して置き、それを購入した。

 ――なのだが、結局このリードも使わなくなった。あれこれと何枚も試奏しているとその中ではいい感じがするのだが、結局"比較的"な問題で、いざ帰っていろいる吹いてみると、音もレスポンスもどこか中途半端で、ケーンのリードにはかなわない、という結論に達してしまうのだ。

 試奏しておきながら結局使えないリードを2度まで購入してしまった結果になり、反省して一度は並クラでレジェールを使う事をあきらめようとも思った。なのにしばらくしてまた挑戦しようと思ったのは、「リードのことばかり考えていたからじゃないか?」とふと気になったからだった。

 それで次に狙ったのは「Play Easy」。これまでは今使っているマウスピースに合ったレジェールリードを探してきた。しかしその望みが絶たれた今、マウスピースとの取り合わせまで含めてレジェールリードを考えるべきではないのか?と思い立ったのだ。「Play Easy」はオーストリアの新興マウスピースメーカーとして話題のNickが、レジェールリードで吹くことを前提に開発し、リードとセットで販売しているものだ。リードもこのマウスピースに合わせて調整しているらしいし、これで吹けば新たな可能性があるのではないか――。そうして4回目の試奏に向かった。

 ただ――もうくどくど書かないが、この試みもまた徒労に終わった。試奏してみて、ここで使われるリードもスタンダードと大差ないようだし、マウスピースと合せても、まぁせいぜい「悪くない」と言う程度だった。今までの手痛い失敗から、この程度では結局またお金をどぶに捨てることになってしまう…それが見えてしまった。それでもその中からけっこうよさそうに思えたリードを単品で1枚買ってしまったのはまだあきらめがつかない表れか。

 そしてこのリードも結局前2枚と同じ道を歩み、リードケースの肥やしとなっていったことは言うまでもない。。
 こうして3枚も立て続けに似たような失敗をしてしまったため、さすがにここはレジェールをあきらめた。バスクラの方は相変わらずレジェールを使っていたので、それでも時折むくむくとレジェール熱が再燃しそうになるが、そんな時は手元の3枚のリードを引っ張り出して吹き「所詮こんなだぞ」と改めて自分に思い知らしめることによって気を鎮めていた。

 さらにもうひとつ決定的だった出来事が、これと前後して、以前からお世話になっているプロのクラリネット奏者の指導を受けた時にあった。その方が最近レジェールを使っていることをその時初めて知ったのだが、レジェールに関する貴重な話を伺うとともに、その方が自分で今使っているレジェールリード(ヨーロピアンシグネチャー)をちょっと吹かせてもらう機会にも恵まれたのだ。はたしてどんな具合か、自分のマウスピースに付けて吹いてみたが――それでも印象は大きく変わらなかった。プロの奏者が自分で吹くために選定したリードである、間違いなく選りすぐりのレジェールリードとみていいだろう。それを吹いてですら自分の印象が変わらないとすれば…これはもう自分にはレジェールは向かないと断言していいだろう。これでもう本気であきらがついた、とこの時は思った――。

 と、このようにレジェールリードを巡って七転八倒の大騒ぎをして一旦はあきらめておきながら、この病気は一旦罹るとなかなか抜けてくれないらしい。この後さらに右往左往し続けることになるのだった。

レジェールリード狂騒曲

 レジェールリードの存在を知ったのはもうかれこれ10年以上前になるだろうか。確か最初にその実物に接したのは2005年夏にパルテノン多摩で開催された国際クラリネットフェスティヴァルでのことだった。この時には国内外の著名なクラリネット奏者が多摩に集結したのはもちろん、クラリネットに関する様々なものが紹介され(バックンの樽やベルがものすごい話題になったものだ)、レジェールリードもその中で出品・販売されたのだ。そこで試奏もできたはずだが、なんかどうにも色物的なものに思えて手を伸ばそうとはしなかった。

 だがそれから数年して、ウィーンフィルのエルンスト オッテンザマーとその2人の息子(まだ「クラリノッティ」と名乗る前だった)が来日して3人で演奏会を開くのを聴きに行った際、演奏途中で楽器につけているリードが半透明なことがちらりと判別できてわが目を疑った。いつの間にやら敬愛するベルリンフィルウィーンフィルの現役クラリネット奏者の間でレジェール使用者が増えつつある、と知って衝撃を受けたのはその少し後の事だが、この時はレジェールを使っている事を耳で聴き分けられなかった事がショックだった。知った後で改めて聴いてみると、彼らの音が微妙に浮ついた感じに変わってしまったように思えたけども、言いかえれば「言われてみればちょっと…」ぐらいの違和感しかなかったのだ。

 それでもライスターがレジェールに否定的な発言をしたり、ザビーネ マイヤーを始めまだケーンのリードを使い続けている奏者はたくさんいる。その頃、一緒に吹いていた人が持っていたレジェールリードをの場で借りてちょっと吹いてみたのだが、その際はあまりにケーンのリードと違ってまともに音が出ず、印象は最悪だった。そんなことがあってまだ自分で近づこうとは思わなかったのだが、それでも内心無関心ではいられなくなってきた。

 そんな自分の中の状況が変わっていったのはここ2~3年のこと。身近なクラ吹きの中でも徐々にレジェールを使う人が増えてきて、しかもその中には以前より「うまいよなー」と感心していた人がいつの間にかレジェールリードを使っていて、「え! これがレジェールで出した音なの!?」と内心驚くことが一度ならずあったからだった。レジェールも案外ばかにできないかもしれない。調べていくといつの間にか種類も増えており、なんでも後発の「シグネチャー」は評判がいいらしい。ようやくちょっと心が動き始めた。

 心動かされた理由はもうひとつ。というのも2年ほど前からバスクラのリード選びに心底悩んでいたのだ。バスクラに関しては数年前からヴィルシャーの№463というリードを愛用していたのだが、これが3年ほど前に製造停止になってしまった。リードの統廃合・仕様変更はよくあることなのだが、毎度それには振り回される。ヴィルシャーのエーラー用バスクラリードはもうひとつ№429というのがあり、もちろんそちらも使ってみた。こちらも悪くなく、音色に関してはむしろ№463よりもいいぐらいだったのだが、非常に繊細であり、思いっきりよく吹きこむ事ができなかった。しばしば音の立ち上がり時にキュッキュと音が出ることがあり、一度それが始まるとドツボに嵌って抜け出せない。結局そっと吹かなくてはならない感じで安心して使えなかった。自分には微妙すぎるのだと思う。(その点№463は良くも悪くも堅牢) そんなわけで結局手持ちの№463を使っていたのだが、リードが消耗品である以上供給がなければどんどん減っていくのは理の当然…。残り少なくなってきてどうしよかと困っていた所だったのだ。

 バスクラのリードどうしよう…。なかなか次が決まらず、減っていくリードにだんだん焦燥感が募ってきたところにこの状況である。レジェールリードがもし使い物になってくれさえすれば、この悩みが一気に全部解決するかもしれない…。そんな想いがが頭の中を駆け巡り、淡い期待が湧いてくる。たまらず昨年2月、大久保のとある管楽器専門店にレジェールリードを求めて入ってみたのだ。
 この、それまであまり馴染のない楽器店にわざわざ足を踏み入れた訳は、ここではレジェールリードを各種試奏した上で買えると知ったからだった。普通のケーンのリードだったらまとめて箱買いしてその中から取捨選択するのは当たり前だが、単価が高く、1枚単位で長く使うのが前提のレジェールは「試奏しないで買うなんておかしい!(リスク高すぎ)」と常々思っていたので、試奏できると聞いて「わが意を得たり」とこの店に望みを託したのだ。

 さて、とはいえ自分が使っているエーラー式バスクラのレジェールリードはまだ製品化されていない。しかしエーラー式バスクラはアルトサックス用のリードが代用できるのは知っていた(ちなみにベームバスクラだとテナーサックスのが代用できる)。受付で来意を告げ、店員に「アルトサックスの3番とその前後を、スタンダードとシグネチャー両方で」とお願いして試奏室に入る。楽器を組み立てていると、スタンダードとシグネチャー、23/4~31/4の3枚づつが並んで出てきた。
 さて、いよいよ…とリードをマウスピースに着けてみる。こうしてみると、思ったよりも大きい。レーンから少しはみ出して、吹き口をすべて覆う感じになってしまう。使えるとはいえ、やはりぴったりという訳にはいかないものだ。まぁ足りないよりははみ出すぐらいの方がいいと経験的に思ってるのでなんとかなりそうだと吹き始めた。
 まずはスタンダードの3番を。ちょっと緊張気味に息を吹き込むと――あれ、ぜんぜんダメ。なんだか板を吹いてるみたいでかなり抵抗が強くてスカスカの音しか出ない。以前借りて吹いてみた時の記憶が頭をよぎる。ひょっとしてはみ出すぐらいのリードだと通常よりも抵抗が大きくなってしまうのだろうか。最初からバスクラ用のマウスピースならば3番だが、この場合もっと薄い番手の方がよさそうだ。ということで次にスタンダードの23/4を。あ、これはまだ何とかなる。音が出ることは確認できたが、まだなんかごわごわした感触でいただけない。

 それではいよいよ期待のシグネチャーを、と23/4をつけてみる。あ、こちらの方が感触が自然、というかケーンと大差ない吹奏感を得た。これなら…とひとしきり吹いて、次に手持ちのヴィルシャー№463をつけて違いを確かめた。結果――吹き心地や音に関しても、とりたてて変わりはない。これなら、あの№429の繊細な音は無理かもしれないが、少なくとも№463の代わりにはなりそうだ、と思う。 次に試しにシグネチャーの3をつけてみる。確かにさっきよりは重いけども、スタンダードの時のようなどうしようもなさはない。というか吹いているうちに段々コツがつかめてきたのか音がどんどん出始めた。
 あ、じゃあこっちの方にしようかな――とふと考えて苦笑した。ケーンのリードだったら、はじめのうちはちょっと重いぐらいのリードを選ぶのが正解だろう。吹いてるうちに柔らかくなることを想定して。その考えが染みついているのだ。けどもこれはレジェール。ヘタることを考慮しないとしたら、今一番音が出ている23/4にすべきだろう。結局スタンダードにはもう2度と戻らず、23/4のシグネチャーに戻してさらにいろいろ吹いてみる。気になっていたレスポンスだが、確かに音の立ち上がりの反応が若干遅いような気がする。アタックを繰り返して注意深く反応を見る。確かにちょっと先端が厚めのリードのような感触だが、むしろそれ以上に感じたのはその安定性だった。ケーンのリードのようなバランスのばらつきがないせいだろう、息の入れ具合に対して非常に素直に反応してくれて、予想外の反応(すなわちリードミス)がほとんどない。つまりどう息を入れればどういう音が出るか、というのが事前に計算できるのだ。今までどうしても不確定要素が入り込んでいたケーンのリードと比べるとこれは大きなメリットになる。実際吹いててけっこう強く吹きこんでもリードミスをすることは1回もなかった。
 結論。これは充分使えるリードだ。そう心に決めて、店員にシグネチャーの23/4購入の旨を伝える。時計を確認すると、試奏し始めてから実質15分ほどしか経っていない。実際それほど迷う要素が少なかったのだ。

 さて、以来買ってきたレジェールをつけてひとりで吹いてみて、かつ練習でも何度となく使い心地を確かめてみた。そして何より感じたのは「圧倒的に吹きやすい」ことだった。
 レジェールリードの特徴として前述のように安定性がある。ケーンとは違い水が浸み込まないので使っていて状態が変化することがない。吹く前に唾を含ませてる必要もなければ吹いているうちにどんどん浸み込んでヘタることもない。なのでどんな時でも吹き心地が変わらず、同じように息を吹き込めばいつも同じように鳴る、偶発的な要素がなく、その分安心して吹けるのだ。自然素材でなくすべて合理的に計算されたものだからか、息を吹き込めば楽器が素直に鳴ってくれる。その結果リードミスも格段に減り、またそれまで苦手にしていた最低音域への跳躍などもかなり確実に決まる。そうなると自分がうまくなった気がして楽器を吹くのが楽しくなり、一層練習に身が入る。しかもケーンのリードだとヘタらないよう、いいリードでもある程度時間が吹いたら交換して休ませなければいなかったのに、レジェールならこの「いい感じ」のリードをずっと使い続けていられるのも嬉しい。

 もちろんいいことばかりではない。音色は予想以上に満足いく、円みを帯びたものだけども、なんだか思い切り吹きこむと雑味が出るような――ただこれはアルトサックスのリードを使っている弊害(マウスピースのレーンよりも若干はみ出し加減のリードのため、リードの位置がちょっとずれると余計な振動が発生する)らしいということがだんだん分かってきて、ちゃんとずれを修正すれば軽減することが分かってきた。その他にもフォルテシモが思い切りよく出ないとかアタックの切れ味がやっぱりイマイチ丸いとか気になる部分はあるが、充分許容範囲といえた。以前レジェールの使用感として「最上のケーンのリードにはかなわないまでも、これと同等のケーンのリードはいくらでもあり、そのレヴェルのものがいつでもに吹けるという意義がは大きい」という意味の発言を読んだことがあるが、まったく同感だ。

 ただ強いていえば、安定しすぎと言うか、あまりに予想通りに音が出るのでなんかちょっと面白みに欠けるというか――下手なのを棚に上げて大きな事を言うと、不確定要素があるからこそなんとか特徴を掴んで使いこなそうと必死になるのに、そういう冒険心がなくなるというか…。レジェールに慣れきってしまうとケーンのリードが吹けなくなる、というのを聞いたことがあるが、ひょっとするとその真意はそんなところにあるのかもしれない。

 それでもレジェールによって、なんというかバスクラの"可動域"が拡がったことは疑いようがなかった。今まで苦労していたことがけっこうスムーズに吹けるのを実感でき、使い込むうちに勝手が分かってきたのかどんどん自分に馴染んでいくように感じ、いつしか手放せなくなっていた。このリードを手に入れて1年余り、実を言うとバスクラを吹く時は今でもこの時買ったリードを使い続けており、もう何度となく本番もこなし、手放せないものになっていった。

 ――が、その時はまだ気づいていなかった。これがいかにビギナーズラックであり、こうしてレジェールにのめり込むことによって、それからどんなに七転八倒することになるか、を…。

「俺を誰だと思っているんだ」

 その言葉を発した時点で、その人は既に自らのプライドに凝り固まってまわりが見えなくなっている。

マウスピースのリフェイシング!?

 前回、マウスピースの手入れについての考察を書いたばかりだが、その矢先、今月号のPipers(Vol.426)に興味深い記事が載っていた。「マウスピースのリフェイシング」についてだ。

 リフェイシング? 耳慣れない言葉だがその意味するところは察しがついた。フェイシングとはマウスピースでリードと接するあのわずかに傾斜している部分の事。そこを再構築する、ということだろう。
 さっそく雑誌を手に取ってみると、言葉同様、今まで自分では考えもしなかった事が次々と書かれていて目を瞠った。使って摩耗したマウスピースを再生、さらにはチューンナップできるというのだ。

 いや、正確にいうとマウスピースの加工自体には馴染みがあった。例えば先ごろ亡くなったドイツのヴィオット氏が制作したマウスピースにはかつてさんざんお世話になったが、彼は本職は数学教師でありながら、余技としてマウスピースのフェイシングを自らひとつひとつ手作業で削り直し、製品として販売していたのだ。彼の場合もベースはツィンナー製マウスピースであり、自分は最後のひと手間を加えただけ。これも一つのリフェイシングといえるのだろう。しかしこれはあくまで製造過程としての一環であり、使用後に再調整して復活させる、いわば調整としてのリフェイシングという発想はなかった。しかし記事を読み進むうちに、今まで自分が知っていたことのすぐ傍らに、マウスピースのリフェイシングというものが古くから存在していたことを初めて知って驚いた。

 それはマウスピースの歴史とも関係している。そもそもマウスピースはかつて楽器本体同様木で作られていた。それも知っていたけども、木は元々環境その他で変形しやすい素材だから、今よりもはるかに変化を受けやすい。だからこそ頻繁に調整して状態を維持する、あるいはチューンナップしてより良い状態にすることが必須となり、その技術が自ずと発達していったのだという。

 しかし近年エボナイトその他状態がより変わりにくい素材でマウスピースが作られるようになってから、それほど頻繁に調整する必要がなくなり、それに伴いマウスピースの調整技術そのものも次第にすたれていった。その結果、徐々にマウスピースは1回摩耗すればお終いの「使い捨て」のものだという認識が定着するようになって今に至るのだ。
 かといって現在のマウスピースだって"木に比べれば"ましというだけであって、変形しないという訳ではない。前回の書き込みで、吹奏後の手入れによる変形の事を気にしていたけども、今回のPipersの記事によると、それよりも前、実際に吹いているうちに下唇がリードと接触する辺りから摩耗が始まり、徐々に奥に、下にと拡がっていくのだという。となると、マウスピースの摩耗は吹奏後の手入れや保管方法でどうということではなく、長い目で見ると使い減りは避けようのない事となる。

 「マウスピースに息を吹き込んだ瞬間、あるいはリードが振動した瞬間から、すでに変化は始まるのである」筆者はそう言う。もっとも変化は悪いばかりではなく、時にはその人によっていい変化をもたらすこともあるが、いずれにしろその状態がいつまでも続く訳ではない。吹き続ける限り状態は少しづつ変わっていくのだ。
 そして次第にマウスピースとリードの接触面の状況が変わっていき、筆者によると、当初のフェイシングが維持されるのは、使用頻度にも選るがほぼ2年だという。これはだいたい僕の感触的にも納得のいく数字だ。前回の書き込みで取り上げたマウスピースを購入したのは2014年の5月、それから2年半ほど気に入って使い続けてきたが、12月になって急におかしく感じ始めた。僕がマウスピースを「換えよう」と気になるのはだいたい2点、なんか吹いていて気密性がなくなった気がして、息を吹き込んでから音が出るまで何かワンクッション置くような感じになり、ダイレクトに反応してくれなくなるのだ。もしくは妙に音が細く甲高くなって自分の音に納得できなくなり、吹いてて嫌気がさしてくるのだ。
 今回この記事で、筆者がすり減ったマウスピースを使ってて相談を受けた人の悩みの代表的なものを挙げているの。曰く「リードが全然合わなくなった、レスポンスが悪くコントロールしづらくなった、音が明るくキンキンするようになった、響きが不安定になり音の芯が失われた、以前とは違う(通常より硬めの)リードを選ぶようになった、等々」これを読んで思い当たることがありすぎて参ってしまった。実は今回のマウスピースも、使っていて昨年あたりからそれまで使っていたリードが妙に薄く感じるようになって、実際により一段硬めのリードを取り寄せて使ってたりしてたのだから――思えばその頃から既に摩耗が進んでいたのだ、と今になって思い当たる。

 結局僕が前回書いた手入れについての考察なんて大した意味はなく、普通に吹いていれば摩耗はもう避けられようがない不可逆的なものだということがはっきりしてしまった。どうしたらいいんだろう――。僕はクリスタル製のマウスピースは使ったことがないが、今回の記事の中でクリスタル製が(他の材質に比べて)吹奏による摩耗が格段に少ない事が述べられている。もちろん落としてしまえば一発で砕けてしまうものではあるが、そういう事がなければ、うまくすれば一生もんとして使う事すら可能なレヴェルだという。これを読んで、一瞬クリスタルのマウスピースを購入しようかとすら考えてしまった。

 けどこうした摩耗してしまったお気に入りのマウスピースを復活させる方法として、今回の「リフェイシング」があるのだ、と筆者は述べている。これをすれば気に入っていた元の状態に戻すのはもちろん、場合によってはよりいい状態にチューンナップできるのだと。
 ただ、これはもちろん相当な特殊技能であり、素人が簡単にできるものとは到底思えない。ケーンのリードをトライアルアンドエラーしつつ調整していくのとは訳が違う。でも使い古したお気に入りのマウスピースがまた復活するというのは非常に魅力的な提案だ。この記事の筆者はプロのクラリネット奏者として活動しながらこういうマウスピースのリフェイシングを研究し、現在は既製品の調整だけでなく自ら設計したマウスピースを商品化するに至っているという。
 日本にリフェイシング技術を持つ人がいるのかどうか、聞いたことがないが、もしいてくれたら、時折楽器本体を調整に出すみたいに、マウスピースを調整に出して復活することができたらいいな、とつい考えてしまう。

 ともあれ今回の記事は前半であり、次号にはこの続きの記事が掲載されるそうだから、この先にまた何が書かれるのか、とりあえず今は興味を持って待ちたいと思う。

マウスピースの洗浄、その試行錯誤

 楽器の演奏にはマニュアルは存在しない。そりゃ基本的な吹き方とかそういう指針めいたものはあるけど、個人差があって「こうすれば必ずこうなる」と言い切れるようなものはない。結局のところある程度まで行けばその先は各人がそれぞれ自分に見合った方法を模索していく事が必要となってくるのだろう。そういう奥深さがあればこそ長年趣味としてやっていける面白さに通づるのだが、そのため、あるひとつの事に関してに十人が十人違う事を言うことだってある。

 僕がやっているクラリネットについていえば、マウスピースを普段どうやって手入れをするか、なんてその最たるものだろう。

 マウスピース(金管やボクシングで全く別のものを指すのでややこしい)はクラリネットの先に挿し込んでリードをセットすることによって歌口として機能するものだから、始終息を吹き込んでいくので吹いていくうちにどうしても汚れてくる。だから当然掃除する必要があるはずなのだが、困ったことにその洗浄の仕方に"定説"がないのだ。

 ちなみにクラリネット本体は、吹いた後に"スワブ"という紐のついた布を通すことによって管の内側についた唾その他を拭き取ることが必須となっている。マウスピースも一見同じようにしそうなものだが、それは「しない方がいい」とよく言われる。
 マウスピースは非常にデリケートな器具であり、ほんのちょっとした変化で吹き心地が変わってしまう。僕も前に、うっかり手を滑らせてマウスピースを床に落っこどしてしまったことがあるが、それだけでもうぜんぜんダメになってお蔵入りせざるを得なかった。マウスピース自体は楽器と違いエボナイトでできている事が多い(最近他の新素材が使われる例も増えてきた)のだが、このように衝撃にはかなり弱い事は確かだ。
 だから吹くたびにスワブを通したりしていくと、特にデリケートな内側が徐々に削れていって寿命を縮める、というのだ。現に僕が最初にクラリネットを教わった先生(現在も日本を代表するプロオケでトップを吹いている人ですが)からは「マウスピースは自然乾燥しとけばいい」と教わり、なので吹いた後もただそのまま放っておくことを長い事続けていた。

 けど――やはりなんにも掃除しないのもよくないことがそのうちだんだん分かってくる。吹くという事は口の中と常時接触して、そこから絶えず息を吹き込んでいく事だから、息だけでなく口の中のものが一緒に流れ込んでくる。それが少しづつマウスピースの内側に付着していくのは避けようがない。衛生的にも問題があるが、いろんなものが付着して内側に層をなしていき、結局はマウスピースの状態を変えていってしまうのだ。
 やっぱり掃除した方がいいな、とは思いつつもスワブ通せば削れてしまうと言われればそれもためらわれる。ではどうするか――それが、前述のように"定説"がないのだ。考えあぐねた挙句、時折中に水を通したうえでおそるおそる麺棒で軽くなでて汚れを取る、ということを続けてきた。

 「それじゃみんなどうしてる?」と気にかかるのは当然だろう。調べてみるとやはり誰もが知りたい問題らしく、雑誌のQ&Aコーナーとかネットで調べてもいくつかその人なりの回答が目についた。

 その1「コップに水を張ってその中にマウスピースを(コルク部を水に浸けないように)入れ、そこに入れ歯洗浄剤を投入する」
 これはなるほどと思って実際にやってみました。ドラッグストアで(ちょっとこそこそと)ポ〇デントを買ってきて、マウスピースを投入。シュワシュワの泡に包まれていかにもきれいになりそうな感じだったんですが――浸かってた部分が変色してしまったのを見て、なんかヤバい感じがして2度とやる気が失せました。

 その2「コップにポ〇カレモンを入れてそこにマウスピースを突っ込んで一晩置いておけば驚くほどきれいになる。食品だから安全」
 逆に食品を洗浄に使うのに抵抗感を感じてしまって――それにまた浸けた部分が変色してしまうのではないかという不安がよぎり、結局1回もやりませんでした。

 その3「マウスピースなんてしょせん消耗品なんだからさ、気にせずスワブ通していいよ」
 あるプロの人に直接訊いて返ってきた答え。ある意味正論でぐぅの根も出ず、実際一時期マウスピースにスワブを通していた。でも最初に叩き込まれた教えが常に頭の片隅から離れず、暗示かもしれないけど徐々に吹奏感が変わってくる気がして――長続きしませんでした。

 さてそれではどうすべきか。極力マウスピース本体に影響を与えずに汚れだけを落とす方法はないものか…。数年前、某メガネ量販店の前で(これ、いけるんじゃない)とアイディアがひらめきました。
 そう、店舗の前によく置かれているメガネ洗浄機です。超音波洗浄機の事はその以前から話に聞いていましたが、実物を見たのはここが初めてでした。水を張ってある中に眼鏡を突っ込んでスイッチを入れると、蝶番など隅の方に溜まった汚れだけがぶわーっと水の中に浮き出てくる。初めて見た時にはちょっと感動しました。で、なんとなくずっとこれはメガネ洗いのためと思っていたのですが、ある時(ここにマウスピースを突っ込んだら…)と頭の中でつながったのです。まぁいくらなんでも店先でいきなりマウスピースを取り出すのはためらわれたのですが、調べてみるとこの超音波洗浄機、家電量販店で数千円で買えると知り、思い切って"マウスピース洗浄のために"買ってみたのです。

 特に変わった使い方はしていない。張る水に関しては「エボナイトは塩素はよくない」とのことなので浄水器を通した水を使っているぐらい。コルク部分に水を浸けない方がいいとは聞いているので、コルク部分を持って張った水の中に先の方を突っ込み、手でホールドしたままスイッチを入れて終わるまでそのままの体勢で待つ、そのぐらいか。頻度は月1回ぐらいだが、思った通り、スイッチを入れるとマウスピースからは驚くほどの汚れが湧き出てきて、(こんなに汚れてたんだ)と驚く。超音波で共振する影響はどうなんだろうと不安はあるが、元々吹いている時にも共振しているんだから考えないことにした。

 こうしてここ数年、マウスピースの洗浄はもっぱら超音波洗浄機でやってきた。気のせいかもしれないがマウスピースへの影響も少なく、寿命も延びたような気がしていた。ただ、先日ある事があって以来、これだって他と大差ないやり方なんじゃないかと思えてきた…。

 というのも去年の暮れ、練習してなんか妙に音が細く、薄っぺらい音がするようになってしまったのだ。いきなりどうしてだ?としばらく訳が分からずとりあえずまた超音波洗浄機で洗ってみたのだが、その時に内側を覗き込んであることに気がついた。
 コルク側の内側、つまり洗う時手で持っている方の接合部近くに、なにやら薄く盛り上がりが見えたのだ。なんだか分からなかったがこれが関係してそうな気がして、内側に水を通してまんべんなく濡らしたうえで、麺棒を使ってその盛り上がりをこそげ落してみた。それで分かったのだが自分の痰のかけらがへばりついていたのだ。そういえあばその少し前に風邪を引いて鼻水や痰がひどい状態の時があって、そんなときでも楽器吹いていたものだから息と一緒に痰が吹きこまれ、マウスピースの内側にくっついて乾燥したものらしい。前述のように超音波洗浄機に突っ込むときコルク部分を持っているからそこは水に浸かってない。つまり超音波洗浄の死角に入ってしまっていたのだ。

 仕方がないのでマウスピース内部に水を通して濡らしたうえで麺棒をあててそっとこそげ落とす。その上で改めて吹いてみて、とりあえずは状態が好転したようには思えたのだが…それでも、その前と同じようには戻らなかった。吹いているうちに思うようにならない不満がだんだんに溜まってきて――その時たまたま別の具合のいいマウスピースに出会い、結局新しいのに乗り換えることにした。

 自分の中では超音波による洗浄はなかなかいい方法だと思っていたのだが、とんだ落とし穴があった。そして水に浸ける以上、どうあってもコルク部分は洗浄範囲内になってしまう訳で…。息と共に汚れが溜まるのが先端部分が主なので気にしてなかったが、これは結構大きな問題だ。(入れ歯洗浄剤やレモン果汁にも同様の死角が存在する)
 結局このマウスピースの寿命は2年半余り。気に入ってたのだが、結局これまでとさして変わらない寿命で終わってしまった。

 こうして話は半ば降り出しに戻った。結局一番いいのは「気にせずスワブを通すこと」になるのだろうか…???